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[コメント] 出口のない海(2006/日)

戦争を題材にした幾多の作品群の中にあって、本作は「本気」で現代人の問いに答えようとした初の作品である。
sawa:38

イスラムの若者たちの「闘い方」を賛美するつもりはないが、その心情を理解出来ないとは言い切れない自分がいる。 陸上部が言う。「軍神にさせてくれ」と。嗚咽しながら言う。

これまで邦画が描いてきた英霊たちは「天皇陛下万歳」を唱えながら死んでいった。それがやがて「家族を守る為」という理由に変わってきた。戦争を知らない私には後者の理由の方がすんなりと理解できた。自らが防波堤の一角となり、アメリカ兵が家族を蹂躙するのを遅らせる。そんな「美しい」理由に心が震えたものだった。

本作の陸上部も、軍神になる事を懇願した。それはやはり家族を守る為だった。

だが、本作の意味は根底から違っていた。彼は「何」から家族を守りたかったのか?

生きて変えれば不忠者として辱めを受ける。それは故郷の貧しい家族も同罪であり、彼等には将来の展望が消滅する。だが軍神として死にさえすれば、家族には展望が開けるであろう。

そう、彼は鬼畜米英の兵士からではなく、故郷の隣人から家族を守りたかったのだろう。貧しさから家族を守りたかったのだろう。

軍国主義の閉塞した社会から家族を守る。その為に彼は鉄の棺桶に乗って出撃する。ならばその発射管のスイッチを押し、彼の背中を押したのは日本人なのだ。私たち同胞であるべき日本人社会なのではないか・・・・

* これまで「何の為に生きるか?」という問いは数限りなくあった。本作は「何の為に死ぬるか?」という問いに本気で答えようとしている。戦争を知らない世代(西洋化した日本人)が最も理解出来ない問いに答えようとしている。 *

PS,私は中学から明治大付属で過ごし、彼等と同じ制帽・制服を着用していました。否が応でも彼らと自分の姿がダブってみえてしまいます。映画のラストに神宮で応援する学生たちの姿が映し出されていました。アレは私の姿です。同じ制服を着て同じ神田の街を練り歩いた私と、たった30数年先に生まれたが故にあのような運命しか選択できなかった先輩たちに映画館で大粒の涙がこぼれました。

哀しい映画だから泣いたのではありません。今の自分と対比して涙が自然にこぼれてきたのです。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)アルシュ[*] ロボトミー

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