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[コメント] どついたるねん(1989/日)

本作の赤井を観て「格好良い」と思うか「格好悪い」と思うかで評価は随分変わってきます。私は二回観て評価をかなり変えました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 坂本順治監督および主演の赤井英和のデビュー作。この二人のデビューはとても幸運なもので、1980年代というスタイリッシュを求めるこの時代にこれだけ汗くさい泥臭い、人間のエゴ丸出しの作品が作られたと言うだけでも凄いし、しかも二人ともまさにはまり役で、このキャラでずっと押し通している。デビューで最も自然な撮り方が出来たのは何よりも幸運だった。

 実はこの作品私は二回観ているのだが(どっちもテレビだが)、最初に観た時は赤井演じる安達に感情移入出来ずに単なるキツイ作品だとしか思えなかった。単に泥臭い作品としか思ってなかったし、何より安達の性格が嫌味に思えた。「こいつ勝手すぎる」と思ってしまった時点で完全に離れてしまった。それに当時は邦画をかなり低く見ていたのもあったから。

 しかし、それから10数年も経って、その間にATGを含めた“泥臭い”作品を数多く観ることによって、この辺の耐性が出来たのか、改めて観ると、驚くほど素直に物語が入ってくる。

 今から思うと、当時の私は「スポーツとは潔いものであり、スポーツマンシップに則った上で作品を作って欲しい」という思いに捕らわれ、こんな勝手な奴がスポーツマンじゃない。とか思ってたのだが、改めて今考えると、これってある意味『あしたのジョー』(1980)の雰囲気を実に良く伝えた作品であり、形は変形ではあっても、間違いなくスポーツに文字通り命を賭けた男達の姿であったと再確認。

 ある意味、この安達という男は『あしたのジョー』における丹下段平であり、ジョー本人でもある。再起不能となった時、彼は自分のファイティングスタイルを継承してくれる人間が来てくれる事を期待し、そいつに夢を託そうとした。だが、それは結果的に自分のファイティングスタイルを新人に強いるだけになってしまう。「俺は俺でしかない」と言うことを知ることによって、彼は自分自身を取り戻す訳である。そこから再起へと移っていく。ジムの後輩で対戦相手となった清田に対する執拗なまでの嫌がらせも、正々堂々戦うための方便であり、一見勝手に見えるが、これほどストイックな存在はなかろう。

 そう言う意味では本作で本当に格好悪くて格好良い存在を作り上げることが出来た。このキャラクタ性を完成させることが出来たのが本作の最大の売りだ。

 “浪速のロッキー”赤井英和はプロボクサーから転身しただけにリアリティは高く、彼の人柄を慕う人も多かったためか、本作は輪島功一(スーパーウェルター級世界チャンピオン)、六車卓也(バンタム級世界チャンピオン)、渡辺二郎(スーパーフライ級世界チャンピオン)、串木野純也(ウェルター級日本チャンピオン)など、現役、元を含めて多数の有名ボクサーが登場したことも、リアリティに華を添えてる。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)りかちゅ[*]

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