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[コメント] それでもボクはやってない(2007/日)

既存の司法制度に物言う。と言うよりは、現実に“起こり得る”事柄を突きつけてくる作品でした。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 『Shall we ダンス?』(1996)によって、当時低迷中の邦画に活を入れ、引いては現在の邦画ブームを作り上げた原動力となった周防監督の11年ぶりの最新作。よほどじっくりと次回作選びをしたと見え、社会派的、ドキュメンタリー的手法でありながら、物語的にもしっかりした作品を作ってくれた。

 冤罪事件それそのままをエンターテインメントとしてまとめるのは大変困難。本当にあった事件をドキュメンタリーとして仕上げるか、物語の歯車としてほんの一部で使用するか位。この難しい素材に直球で挑戦したのは日本では数少ない。私が思いつく限りでは、『事件』(1978)とか、大島渚の初期作品くらいか?それだって司法制度そのものにリアルにここまで踏み込んだ内容は作れなかった。単にリアルなだけでなく、よくここまで映画として巧みに完成させたものだ。

 近年女性の地位向上の名の下、ストーカーや痴漢を具体的な被害を曖昧にして突き出すことが出来るようになった。それはそれで大変良いことだと思うのだが、当然弊害はある。その最たるものが冤罪と言う奴で、まさに本作はその部分を突いた作品となっている。勿論痴漢に限らず、これまでも数々の冤罪は起こっていたが、今後はますますこういった冤罪が増えていく日本になっていくのだろう。

 そう言う意味では、本作はこれまでの司法制度の矛盾点を突くだけでなく、これから続々と起こるであろう事実を見据えた作品だと言えようか。

 普通に生活しているだけで、あるいは罪に問われる世の中になっていくのかも知れない。そう。仮に誰かに激しく嫌われただけで、捕まえられてしまう可能性もやっぱりあるのだ。そう言う意味では大変怖い話ではある。しかも本作で語られているとおり、裁判官は真実を見つけるのではない。証拠によって判断するだけなのだから。一人の歪んだ発言で容易に真実は覆い隠されてしまう可能性も高い。恐ろしい。

 アメリカと異なり、陪審員制度の無い日本では裁判を描くのが難しいのだが、その様子を丁寧に描いている過程も上手い。何より主人公役の加瀬亮が、徐々に顔が引き締まっていく過程をきちんと描いていることも評価すべきだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)きわ[*] 林田乃丞[*]

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