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[コメント] ワールド・オブ・ライズ(2008/米)

10年前だったら、本作は一種のディストピアものSFで終わってたはず。今、こういう時代に私たちは生きてます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 さて、本作を称するにどう言えばいいか。

 本作はフィクションではあるし、緊迫した物語展開と言い、アクションと言い、単純に言えば、高水準にまとまった作品ではあるのだが、これを単なる「フィクション」とは言い切れないリアリティがある。

 仮に本作が10年前に、有り体に言ってしまえば911の連続爆破事件以前に作られていたならば、本作は良くできたフィクションで終わっただろうし、諜報活動のハイテク装備などで、むしろSFとして観ることも出来ただろう。ただし、とびきりのディストピアものとして。いくらつぶしても次々に現れるテロリストと、世界のどこでも起こる自爆テロ。世界中どんな場所にいても決して安心することが出来ない世界。本気で嫌な未来世界。だから、2001年以前に作られていたら、後味が悪い良くできたディストピア作品。という評価で終わっただろう。

 それならそれで幸せだった。

 しかし問題は、イラク戦争を経て、この世界は現実のものになってしまったということ。今この作品を突きつけられると、既に自分たちは、昔「こうはしたくなかった」世界にいるという事実を突きつけられた気分にされてしまう。前の『ブラックホーク・ダウン』は対岸の火事だったのに、本作の場合、日本にいてでさえ、この世界は今私が観ている世界である。と思わされてしまうリアリティがある。

 だから、はっきり言って本作はとても気持ちが悪い。わたしは今こんな世界に住んでるのか。と、SFではなく現実としてこれを観てしまう。劇中でも全く関係のないオランダが自爆テロの現場に選ばれたように、実際今の日本でも、単なる示威活動のためだけにテロが起こっても不思議はないんじゃないか?とさえ思えてきた。

 しかも、科学が進めば予防が出来るか。という事を本作では真っ向から否定する。911テロが世界に与えた衝撃は、まさにその点であった。本気で死ぬ気さえあれば、どんなハイテクの防衛機構があってもすり抜けてテロは可能なのだし、とても原始的な方法で監視をすり抜ける方法も提示される。安全は科学では得る事が出来ない。その現実の世界に我々は今生きているわけだ。

 色々考えすぎたお陰で正直観終えて暗澹たる気分になった。いやはや、今や大変な時代に生きてるんだな。

(評価:★4)

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