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[コメント] 犬神家の一族(1976/日)

画面が素晴らしすぎて、物語が少々置いてけぼりになっているきらいはありますが、邦画が誇る第一級作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 角川書店の映画進出第一作。監督に実力派の市川崑を配し、おどろおどろしくも美しい猟奇事件を演出することによって大ヒットし、1976年邦画興行成績も2位と大健闘。  元々が映画畑ではない出版業者が映画製作に乗り出したという邦画の一大トピックだったが、野心家として知られた当時の角川春樹社長の狙いは見事に的中。映画単体の興行収入のみならず、原作本はベストセラーとなり、日本の文壇にも一大推理小説ブームを巻き起こす事に成功した。日本におけるメディアミックスの第一作とも言えよう。  この考え自体は実は数年前からアメリカで起こっていたムーブメントで、大ヒットした『ある愛の詩』(1970)で原作本までもが売れ、その後『ゴッド・ファーザー』(1972)でのギャング小説ブームがあったという事実を鑑みて、メディアミックス戦略として映画進出を考えたと思われる。

 実際、メディアミックス第一作というだけでなく、この映画は後の日本の文化に多くの影響も与えている。文壇の推理小説ブームはやがてテレビにも進出。現在に至るも数多くのサスペンスドラマが作られ続けているし、映画においても「斧(よき)、琴、菊」(よきこと聞く)に表される見立て殺人は今や当たり前になり、更にあの印象的な“逆さV字開脚”佐清の死に様(これも見立て殺人で、スケキヨの下半身を逆さにしたことで斧(よき)を示す)は、一体どれだけパクられたか分からないほど。日本映画界にどれだけ本作が貢献したかを考えるだけで、本作は高く評価されて然りだ。

 勿論それだけ本作の演出が素晴らしかったと言うことに他ならない。一見B級作品をここまでの作品に仕上げたのは市川崑監督の実力だし、謎解きそのものよりも雰囲気を作ることに徹底したお陰と言えるだろう。

 終戦直後の雰囲気。猟奇的な、しかし妙に官能的な見立て方。佐清の不気味さと彼を中心とする事件の展開方法。全てがはまり、後に何作も作られることになる市川版(石坂版)金田一作品の中でも突出した演出力を誇っている。市川作品らしいカットバックを多用した画面構成。大野雄二の音楽。見事にぴたりとはまってる。

 そしてその演出を見事に演じて見せたキャスティングの巧さ。なんだかんだ言っても金田一。と言われると他の誰を差し置いて石坂浩二の顔が浮かぶし、それと真っ向組み合う形となった犬神松子役の高峰三枝子の名演ぶり。結局彼女が全ての殺人事件をかぶることになるのだが、それに至るまでの頑なな表情と、全ての謎が明らかになった時に、崩れ落ちる表情のギャップ(なんだかんだ言っても、サスペンスドラマが今ももてはやされているのは、犯人役の顔が変わる瞬間を楽しみにしてるからなんじゃないかな?)は素晴らしいし、全身返り血だらけで仁王立ちになるシーンなどは、一世一代の名演とも見える(特にこのシーンは素晴らしく、顔全体にべったりと血糊を付けながら、全く表情を変えず睨み付けるのは並のホラーよりも怖く、そして綺麗だ)。他にも佐清と青沼静馬を演じ分けたあおい輝彦の不気味さも好青年ぶりのギャップや、高峰の妹役三条美紀や草笛光子の屈折したコンプレックスぶり、ちょい役でさえ手を抜かない演技ぶりなど、語るべき部分はいくらでもある。

 本作により、市川監督と石坂浩二の金田一役ははまり、以降角川はこの二人を中心としてシリーズ化していくことになる。

(評価:★4)

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