[コメント] イントゥ・ザ・ウッズ(2014/米)
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世界中の誰でも知っているディズニーキャラクターを総出演させた“if”の物語で、元々はスティーブン・ソンドハイムの手がけたミュージカル。本来ハッピーエンドに終わるべき童話を大人向けのピリッと辛めのダークファンタジーに仕上げたという物語。
童話の大部分が「幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」で終わることに違和感を覚える人は多い。大半は「これは物語だから」として強引に自分を納得させることになるのだが、その疑問点を持ち続けることができる人は、世界に対して違った視線を持つことができるようになる。尤もその大半は“批評家”と呼ばれ、世の中を斜に構えたいらん事言いになっていくのだが(…)、その中にもクリエイティブ性を発揮する類の人もいる。「めでたしめでたし」の物語を一度壊し、その上で物語を再構成するようになる。
作家と呼ばれる人たちは誰しもそう言う観点をもっているのだと思うのだが、それを極端に表す人もいる。物語を破壊したうえであえて再構築しないまま作品を終わらせ、それを“芸術性”とするなど…
そして本作はその極端に表した物語であると言って良いだろう。
本作の基本は童話の脱構築だが、それぞれの物語を一度ばらばらにして、その上で、「めでたしめでたし」の後を描いたり、物語そのものを書き換えたりして、そんな人物たちが一堂に会して雑然と物語を作っていく。
ここで語られるテーマは、「その結末は本当にめでたいの?」という疑問から出ている。たとえばシンデレラは重労働から解放され、お城でお姫様として扱われることになるが、そもそも市井の出で、貧乏生活が当たり前の人間がお姫様としてお城に幽閉されることが幸せなの?というのもあるし、天上の国をめちゃくちゃにした上に巨人を殺したジャックに対する罪は?などの小骨が引っ掛かるような疑問点を敢えて物語に組み込み、その決着をつけようとしている。
それはとても面白い試みだ。敢えて人が目をつむるような細かいところにツッコミ入れて、自分なりの解釈を入れて再構築する。なんかわくわくするような、それでいて、誰にも認められないような、そんなスリリングさを感じさせる設定だから。
で、物語だが、少なくとも今言ったようなことはすべて含まれているし、物語を作ろうとしているのは良い。
だが、これには根本的な問題がある。
オリジナルの物語は普遍でも、批判は時代にとらわれるという問題だ。
正直言って、この物語、2010年代の目からは、はっきり“古すぎる”のだ。物語の解釈と再構築の仕方がいかにもポストモダニズムで、モロに80年代の感覚をひきずっている…実際本作がブロードウェイミュージカルになったのは1987年だから、それは仕方ないとも言えるのだが、30年前の脚本をそのまま今の時代に持ってきた場合、当時の先進性は、現代から見たら古すぎるとしか見えない。本作が90年代に映画化されていたら、まだ納得がいくものになったんだろうけど。
本作で必要だったのは、物語の脱構築を行ったこの物語を更にもう一度解体して現代版にすることだったはず。それを放棄してしまったのが本作の最大の難点だった。オリジナルに忠実なのは良いけど、観ている側に納得させられない作品を作ってしまったような。もう一歩解釈に踏み込んでくれれば傑作にもなり得たのだが。
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