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[コメント] ミッドウェイ(2019/米=中国=香港=カナダ)

エメリッヒが作るとSFも史実も全部同じ作りになる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 新作映画として、ミッドウェー海戦が作られると知ったのは2019年のこと。一瞬どんなのが出来るのか?と思って監督の名前を見たら、期待はあっけなく消えた。

 もし史実をモティーフにした映画を絶対に作らせていけない監督というのを挙げさせてもらったら、その筆頭にあげるのがマイケル・ベイとエメリッヒになる。ベイ監督についてはパール・ハーバーで散々書き散らしたが、実は最近は結構質の高い映画を作っており、見直してるところで、最近はこの人が作っても、場合によっては面白いものが出来るかも?と思ってるけど、少なくともエメリッヒだけはない。

 エメリッヒ監督は基本SFおよびディザスター映画を得意とする監督だが、基本は全部一緒。

 概ね地球規模の大災害なり、宇宙からの侵略が起こり、それに応対する人間達を描く群像劇になるが、その中心になるのは家族持ちの中年男性で、家族とか仲間とかが危機に陥ったのを助けようとする。無謀と言われようが何だろうが、とにかくがむしゃらに危機に立ち向かって、大切な人を守り切って生還する。

 もう一つ。群像劇だから死ぬ人もいるけど、誰か一人か二人くらいは、他の人が生還するための道造りのために進んで死んでいく人が出てくる。

 この二つの要素を入れて、あとは演出力でそれなりに見せる。

 全部これで終わる。

 こんな単純なのばかり作っていてもこの監督が重宝されるのは、演出力が良くて大画面向きのスペクタクルが上手いのと、ポリティカルコレクトネスには充分配慮して、その面では文句を言わせないものを作る事が出来るからだ。

 そこそこスペクタクルとしては見栄えがするものを作るものの、内容が薄いものを量産するというのが私なりのエメリッヒの評価となる。

 そしてまさにそのエメリッヒそのものの作品ができあがってしまった。

 最初から期待はしてなかったが、最低限の期待を下回るものを作ってどうする?

 あらかじめ期待はしてなかったとは言え、たった一つだけ期待できるものがあった。それは映画紹介にあった「日米双方から描く」という点。ビッグバジェット作品になると第二次大戦の作品はアメリカ側の視点のみで作られるものが多いが、それでも人種問題については配慮できるエメリッヒのこと。日本側の視点も入れてくれるかも知れないと思っていたが、特にそこの点が全然駄目だった。一応日本側にも大局を見て行動できる人がいるという視点はあっても、それを全部山本五十六たった一人に負わせて、「力及ばず戦いを止める事が出来なかった」というエクスキューズを何度も入れるだけ。これでは日本側の視点とは言えない。単なる個人的言い訳だ。インデペンデンス・デイに出てくるエイリアンの中で一体だけ地球侵攻を反対する個体を加えたくらいの要素。

 結局パール・ハーバーからミッドウェーに至るまで連戦した飛行機乗りのディックばかりが中心になる、実にいつも通りのエメリッヒ作品ができあがった。

 なんのことはない。日本軍の襲撃の現場にいた人間が日本憎しをこじらせて連戦して勝ち続けると言うだけの話である。メインの話はそれで終わる。

 肝心な戦略レベルの話では、アメリカ側ではかなりしっかりと歴史を振り返っている。太平洋戦線の中でニミッツやハルゼーといった提督たちがどのように取り組んだかなどはしっかり描いているし、暗号探査についてもちゃんと描いている。ただ、これは基本的にアメリカの国内だけの話であり、日本との兼ね合いがまるで無い。しかも前述の通り日本ではほぼ山本五十六だけしかまともな人間がいないため、日本側は本当に僅かしか描けてない。相手あってのことなので、どちらも描いて欲しかったことと、何事もスムーズに行かないなら、それを語る会議とか、妨害するものとかを丁寧に描いて欲しかった。

 それにパール・ハーバーからドゥー・リトル、太平洋諸島の連戦とかそんな範囲広げないで、そちらはさくっと描いてミッドウェー海戦に注力してほしかったところだ。  理想を言うならば、主人公は前線ではなく作戦を立てる側。ミッドウェーの直前の描写を中心にしてくれれば良かったんだが、そちらより戦闘描写ばかりが目立つ結果となる。アメリカの一方からだけ観た歴史そのものだ。

 これでは戦争物としての魅力はほぼなし。SF作品そのものになってしまう。

 戦闘描写についても困ったことがある。

 最初のパール・ハーバーの奇襲では日本の攻撃では機銃掃射だけで戦艦が次々に炎上してるのに、日本の空母を攻撃するのには爆弾を落とすしかないという描写だけでおなかいっぱい。日本の艦艇はアメリカのものの数十倍程度の強度を持つ事になってしまう。エメリッヒの好きな特攻も日米双方で多数行われるし、それをやる度に心が冷える。

 この辺の描写が、まだ笑えた分パール・ハーバー(2001)の方が増しだと思えた時点で駄目だろ。

(評価:★1)

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