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[コメント] 死刑台のメロディ(1970/伊=仏)

“空気を読む”人は、時として残酷です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作のテーマは間違いなく人種偏見と思想差別なのだが、時代時代によって“空気”というものが変わってくる。移民によって成立したアメリカではあるが、法体制が整うに従い、時代によっては移民が嫌われる時があった(19世紀の出来事としてはチミノ監督の「天国の門」がある)。特に1920年代の大恐慌時代はイタリア系移民がとにかく嫌われる風潮にあったようで、それを逆にバネにしてのし上がったのがマフィアだった。例えば同時代を描く「ゴッドファーザーPART2」なんかは、こういった時代背景があったことを考えつつ観ると味わいが変わってくる。

 特に途中、真犯人が確定しているというのに、あくまで裁判を続けていくシーンで裁判官が叫んだ「事件の真疑など問題ではなく、二人がイタリア人であり、民主主義について何も知らず、言葉もろくに知らない、自由社会にもっとも危険な野蛮人であるから」という言葉は、その当時の“空気”が持つ本音そのものとして捉えることが出来よう。

 特に我々日本人にとって“空気”というのはとても重要。その“空気”を読めない人間はあっという間に排除されてしまう傾向にある(現在「空気読めない」は完全な差別用語になってしまっている)。我が身を振り返るも、時として差別を受ける身であり、時として差別を行う身であることを改めて思わされてしまう。物語そのものよりも自分自身が痛い。

 本作ではヴォロンテとクッチョーラの二人の演技が凄い。最初(いかにもイタリア系で濃い顔してるが)単なる人の良さそうなおっさんだったのが、激しい攻撃を受ける内に顔つきがどんどん険しく強ばっていく。最初の内は希望が出る度にその強ばりが減じていくのだが、だんだんこれが茶番だと分かってくるに連れ、完璧に顔つきが固まってしまう。そしてそれを受け入れた時の、まるで殉教者のような晴れ晴れとした表情へと変わっていく、その過程が素晴らしい。

 決して観て楽しい作品ではない。だけど観ておくべき作品の一つであることは確か。

 本作の主役ヴァンゼッティを演じたヴォロンテは数々のマカロニウエスタンで名脇役をこなして既に国際派スターの名声を得ていたが、本作によって反アメリカ的というレッテルを貼られてしまったとのこと。これもやっぱり“空気”を読んでしまった故の悲劇か?

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

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