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[コメント] 日本沈没(1973/日)

かつて日本を守るために戦った藤岡弘。だが今度は日本そのものが襲いかかってきた!…という解釈は如何でしょう?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 日本沈没という異常事態を前に描かれる小松左京原作の群像劇の映画化。当時の不安な世相を反映したかのような作品が受けたか原作はベストセラーとなったが、映画でも大規模な特撮と緊迫した人間ドラマが錯綜させたお陰で1973年邦画興行成績は堂々の1位(実際には評論家によれば評価は高くないのだが、日本映画史上初めての配給収入20億円を超えた大ヒット作となったという事実は変わりなし)。

 私は原作を二度読んでいる。一度目は中学生の時。丁度SF小説にはまりだした頃で、当時は主に小松左京、筒井康隆、星新一、平井和正、豊田有恒、眉村卓と言った日本作家を中心に読んでいて(海外SFにはまるのは高校生になって)、その系列で読んでみたのだが、これは凄い作品だ。と確信。ジュブナイルが中心だった私にとって初めてのSF群像劇だったし、何よりこの豪毅なプロットに、矮小な人間の存在。そしてその中でヒーロー不在であがき続ける人間の姿…何もかもが新鮮であり、衝撃的な作品だった。子供の頃テレビでやっていた本作は微かに何話か観た記憶がある程度で、これもいつか観直してみたいものだ。

 残念ながらなかなか映画の方は観ることが出来なかったのだが、ようやく先日になって拝見。

 批評家の言うとおりで、意気込みは認められるものの、稚拙な部分も多い作品だ。特に特撮部分は、金をこれだけ潤沢に使えたのだから、もうちょっと工夫が必要か?思わせてしまったところが残念。使いどころさえ間違えなければ良いものが出来ただろうに。特に肝心の日本沈没のシーンがチープなのはいただけない。それに原作にあった、庶民的な部分での描写が極めて少なくなってしまい、政治的駆け引きや学術論争ばかりがトピックとして出されていたため、人間描写としても今ひとつと言った感じ。そう言う意味では『世界大戦争』(1961)のバランスの良さを思わせられる作品だった。

 しかしながら、この映画に関しては、それで良かったのだろうと思う。僅か2時間足らずの時間で語るのならば、項目は絞るべきだったし、政治部分に特化したためにこそ、机上論と現実の推移の違いというものをしっかり演出することが出来たし、責任を持つべき人間の苦悩は、やはり見応えがある。

 それに藤岡弘、丹波哲郎、小林桂樹と言ったアクの強いキャラを中心に据えることによって、緊迫感が増していたのも確か。特にこの作品に限っては首相は徹底的に個性的でなければ映えなかったが、その期待に見事にこたえた丹波哲郎の演技は特筆に値する。丹波哲郎か三船敏郎でなければこの役を務めることは出来なかっただろう。このキャラクタ描写は現実的でないとか、こんな格好良い首相がいるはずがない。とかは色々考えるけど、自分ではどうしようもない自体に対して、それでも戦い続けようとする姿が映える。自分の任期中にこんな事が起こったことを嘆くのではなく、更に自分の保身を考えることもなく、自分はどれだけ悪人になっても構わないから、一人でも多くの日本人を救おうとする姿は無性に格好良いぞ。

 それと、結局庶民代表として全てを引き受けた形となった藤岡弘だが、言うまでもなく、この人はかつて『仮面ライダー』の本郷猛役をやっていた。それで、仮面ライダーとして守っていた日本という国そのものと戦わなければならないとすれば…なんて事を考えると、大変な皮肉に思えて興味深い。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)tredair[*] 桂木京介 アルシュ[*]

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