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[コメント] 地下水道(1957/ポーランド)

確かに傑作!しかし、あのラストはどうしても…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
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 ワイダ監督の出世作となった本作。かつて「灰とダイヤモンド」(1957)を観て衝撃を受けた私としては期待しまくりの作品だった。そしてまさに期待通り。いや、期待以上の素晴らしい作品を魅せてくれた。

 1939年のドイツによる電撃作戦によって、それこそあっと言う間に占領されてしまったポーランドは、逆に抵抗する意志が燃え上がる前に勝手に占領されてしまったこともあってか、パルチザンとして、長い地下活動の期間を置くことになった(フランスも同様でかなり複雑な地下組織が存在するが、その辺は『パリは燃えているか』(1966)でよく描かれているので、これもお薦め)。ポーランド人を下級民族と見るドイツ人の態度も市民の反感を強く煽ったことだろう。結果的にドイツはポーランドに軍隊を常駐させることを余儀なくされるが、その弾圧は過酷を極め、パルチザンも激しい弾圧に遭って徐々にその力を失っていった。特にドイツの敗戦直前は、ポーランド自身がソ連による攻撃を受けたため、パルチザンも激しく弱められていた。そんな時代の話。

 主題は表題にあるとおり、地下水道での徘徊なのだが、長い冒頭部分でそこに持っていくまでのドラマが丁寧に描かれる。この辺は少々冗長な気もしたが(意地悪い見方をするなら地下水道では間が持たなかったから強引に挿入したと言う可能性もある)、その分後半の暗闇の中のキャラクター描写が際だっていた。

 暗闇の中、時折聞こえる人の息づかいや水音、これを鬱陶しいものと思いつつも、これが無くなったら更なる恐怖が待っている。急がねばならぬと言う焦燥と、自分の他誰もいなくなってしまうのではないかという緊張。暗闇に閉ざされた世界の中の、極限状態。その演出が見事であった。

 結局地下水道の中でバラバラになってしまい、それぞれに待っていた絶望に彩られるラストも凄い。やっと暗闇から出られる!と思った瞬間、そこに鉄柵があったり、銃口が待っていたり、あるいは手榴弾があったり…最悪のは、唯一安全な場所に出られた部隊長のザドラが、再び地下水道に潜ってしまうところ…これは確かに凄い。

 …しかし、この救いようのないラストシーン、見ようによってはとんでもなくブラックではあるが、ジョークに見えてしまうのも事実。

 だって、やっと救われた!と思って喜んでいたのが、突然絶望に落とされてしまうなんて、ジョークの常套手段じゃないか…実際、明らかにこれをネタにしたアニメ作品を観たことがあるし。

(評価:★5)

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