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[コメント] 人間の証明(1977/日)

映画としての出来はともかく、『最も危険な遊戯』(1978)と並び、松田優作と言う人物を観るためには重要な作品でしょう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 『犬神家の一族』(1976)で日本のメディア・ミックス路線を切り開いた角川が次に選んだ素材はなんと森村誠一による推理小説だった。森村誠一と言えば、当時最も映像化されやすい作家としても有名で、特にテレビドラマであればそれこそ映像化されないものの方が少ないくらい。それをわざわざ映画でやるという。しかも角川は話題づくりのために脚本の一般公募をまで行った。テレビドラマであれば人気のある素材でも、映画になったらどうなるか全く未知数なので、ここではかなりの冒険に出たことを思わされる。ただ、第1弾の『犬神家の一族』で培ったメディアミックスの手法があり、かなり自信のある賭けだったようにも思える。事実、1977年邦画興行成績2位で、歴代の興行収益も22億5000万円をたたき出して2位(当時)という華々しい成績を残すことができたし、すでに手垢がついた感のあった推理小説がまだまだ魅力的に映画として作り上げることができると言うことをも証明して見せた(公開前に関連業者に多量の前売り券を販売した初めての例だったことも幸いした…この方法もしばらくの間、衰退していく邦画を助ける一助でもあったわけだが)。西条八十の「帽子」という詩「お母さん、あの帽子どうしたでしょうね?」のキャッチコピーもヒットした。

 この作品は脚本を一般公募したことでも知られるが、これはあくまで話題づくりでしかなく、結果としてベテランの松山善三となった。でもプロが作ったからこそこの水準を保てたわけだから、これはこれで正しい方法だったのだろう。

 原作はたまたま父の書斎の蔵書の中にあり(当時の父は社会派推理小説が好き)、それでずいぶん前に読んだが、長いばかりで今一つ面白いとは思えず、更に偶然の要素と不自然な人間関係に辟易し、どうも著者とは合わないとばかり思っていたお陰で(それでもそれなりに読んでいるのだが)、なかなか鑑賞の機会はなかったのだが、ようやく先日になって拝見することが出来た。

 原作通り複雑な人間関係と偶然の要素が強すぎて、推理ものとしては水準に達してないし(原作でのキー・アイテムであるぬいぐるみが時計になってるし)、社会派ドラマとしてもちょっと中途半端な感じはするが、本作にはそれ以上の魅力が確かにある。  この作品、キャラクタ描写に関しては追従を許さない凄さを見せているのだ。特に、本来刑事の一人にすぎないはずの松田優作の存在感は特筆もの。

 彼の演じる棟居というキャラは、本来的にはあくまで刑事として、“傍観者”として役付けられているはずだが、彼は自分自身が幼少時に受けた傷を否が応にも突き付けられていく。そしていつしか自分自身が“当事者”として関わっていくことにされてしまうのだ。初登場時には単なる熱血刑事にしか見えなかった彼が、やがて苦悩の表情も新たに事件にのめりこんでいく。その姿は、泥臭く野暮ったいものであったとしても、野生味溢れるものであり、松田優作と言う俳優の魅力を余すことなく映し出している。

(評価:★3)

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