いや、私自身は喫煙者じゃないし、喫煙者が減っていること自体は歓迎すべきことだとも思うけど、近頃のたばこに対するすさまじい敵意の奔流にはすこし辟易する。「アビィ・ロード」のジャケットからたばこを削除したなんて話をきくと、オーウェルの「1984年」を思い出してちょっと背筋が寒くなる。そのうち映像技術がもっと進歩すれば、ジョン・ウェインやハンフリー・ボガートだって禁煙させられてしまうかもしれない。

でもねえ、この映画に出てくるような連中が健康やマナーに気を使うと思いますか？たばこに限った話ではない。人は人生において数多くの不合理な選択をするが、それゆえにこそ発せられる魅力というものもまた数多くあるものなのだ。「麻雀放浪記」を見よ。それを見て真似をする人間が出るのが怖いというなら、映画はすべて善男善女のおとぎばなしになってしまうではないか。

この映画は言ってみれば悪ガキがそのまま大人になったような馬鹿な連中が、不合理な選択の果てにむなしく死んでいく、というだけの話なのに、その馬鹿な連中がどんな成功者よりも魅力的に描かれている。そしてそういう連中にはやっぱり、健康なんか気にして禁煙などはしてもらいたくないのである。