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[コメント] ゴールデンスランバー(2010/日)

首相暗殺というショッキングな題材を扱いつつ、根っこには相変わらず良き青春へのオマージュが溢れている伊坂の代表作の映画化だ。
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**ネタバレ注意**
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アヒルと鴨のコインロッカー』ではボブ・ディランだったが、今回はビートルズ。巻き込まれ型の典型的なサスペンスと言いたいところだが、そこは伊坂原作、主眼は「生きていくうえで一番必要なのは何だろう」という甘い切ないけれどそれなくしては生きていけない「信頼」という概念が今回のモチーフ。

事件現場の屋上場面や凶器となるラジコンを操作している主人公と酷似している人間の映像が公に報道されていても、信頼という概念が主人公の無実を信じさせるという展開に、原作どおりなのだが、映像化するとちょっと強引かなあとも思ったが、そんなの見ているうちにどうでもよくなってくるのがこの映画の良さであり、強さでもある。

両親、学生時代のバイト先の花火屋、宅配便の同僚、ひょんなことで助けたアイドル、そして学生時代の仲間たち。みんながみんな彼を信頼する。みんな、監視カメラ等の制御された社気構造のなかでの自由というものに疑問を持っているという設定である。だからこそ体制の嘘も即座に気づき、彼のやっていないという言葉一つで一人の人間を信頼する。

中村義洋の映像は本当にフラットだ。映像美というものには関心がないかのようである。まるでビデオで撮影したかのような映像だ。でもだからこそ親近感があり、映像との距離も近くなるのだろう。

唐突に出現する通り魔との遭遇も面白く、何か濱田岳が演じるとコミカルで切なげなイメージになる。単調な逃亡劇に膨らみを持たせている。竹内結子のさばさば感、劇団ひとりの一途さもいい。そして若いのに人生を知ってしまった吉岡秀隆も強烈な印象。

堺雅人としては決して難しい役柄ではないと思う。むしろ主人公というより、誰もが持っている心の青春というものを目覚めさせていく進行役といった方がいいのかもしれない。透明感がなければ演じ切れない役柄だ。

エンタメとしても優れているが、題名通り良き青春映画だろう。しかし、今回は首相暗殺と言った大掛かりな逃亡劇を用意したものだから、『アヒルと鴨のコインロッカー』に較べて切なさといった純度はかなり薄まっていると思う。でも、いい映画ですね。好きです。

(評価:★4)

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