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[コメント] 抱擁のかけら(2009/スペイン)

冒頭。若い女との絡み。男は初老の視力をなくした男。女は親切心で杖の代わりに男を誘導してあげたのに、部屋で男に漁られることになってしまう。滑るようなうまい演出。余裕があり過ぎるぐらい。観客はすでにアルモドバルの策略にはまっている。
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単純な話なのである。でもアルモドバルは話を一旦解体し、再び注意深く紡いでゆく作業をする。時間軸を逆転し、さらに映画の中の映画という仕掛けを用意し、そして映画フィルムという究極の素材をもって一挙、一編の人生ドラマをくくってしまうその手法。見事でした。

やはりシーンのカットとか、安心して見られるからこちらも腕組みをしながら、ふむふむそうなのか、と展開を楽しめる。あの、世話をしてくれている女性も、妻なのかどうかわからない思わせぶりで、観客に疑問を投げかけておいて、最後の方で実は、とちょっとしたうっちゃりを見せる。

しかも、もう息子と親子の付き合いをしているかのように見せかけておいて、母から告白を受けるなんて、少々手あかのついた臭い演出だが、アルモドバルは楽しんでいる。

ただ今回は映画少年ぶったところもある。 残されたフィルムから全く別の映画を作るなんて、そんな夢のようなハナシもストーリーに取り入れている。これって、少々恥ずかしくないかなあ、なんて僕は思ってしまうけれど、全然彼は平気だ。そもそも、脚本自体がしっかりと存在しているのに、編集次第で本当に愚作が秀作に変わるのだろうか、と訝る思いもあるが、まあ許してあげよう。

とか、ずっと見ているアルモドバルだから僕も好き放題言っているが、はっと目の覚めるようなペネロペ・クルスの導入部から、無理にオードリーに似せたヘアースタイルと言い、あちこちで余裕を考えられるいぶし銀のような映画でした。 でもこれ以上やり過ぎるとちょっと鼻についてくるかなあ、といった感もなくはない。でも次作も精力的なんだろうなあ。

(評価:★4)

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