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[コメント] マグダレンの祈り(2002/英=アイルランド)

最初の30分で劇場退出を考えた。 2004年2月4日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







話も別に読めない、とか言う訳ではなく、極めてシンプル。簡単に言えば『ショー・シャンクの空に』みたいな感じ。まぁあれより遥かに強烈で過酷な映画な訳なので、結末が大体予測できるが、しかし上手いのだけれども、どうしても過酷過ぎて重たい、この映画に敢えて2時間も付き合うのはどうも気が重すぎる、と思い、本気で劇場を退出しようかと思った。

本当に過酷。冒頭で、修道院に”監禁”される理由が描かれる。ドラマを成すのは、基本的にマーガレット、バーナデッド、ローズ、そしてクリスピーナの四人。あとは刑務所の看守よりも怖い(俺から見れば)気狂い修道女どもである。あっ、痒い所を掻きたい、と言う欲に負けた、堕落神父もお忘れなく。

初めに言っておくが、俺は宗教と言うのが嫌い。勝手に作った物語をあーだのこーだの語って、大げさに「神様が助けてくださる」だの訳の分からない理由をつけちゃ、何かをさせようとする。信じる信じない、に関して俺が口は出せないし、出す気も無い。ただ、俺はそういう勝手で無理矢理な倫理観を振りかざして、モラルが無い、だの淫ら、だのほざいて「自由」を束縛しようとする観念が嫌い。

だから、この映画を見ながら嫌悪感を感じながら、呆然とその時代の現実を眺め、言葉も発する事が出来ないまま、主人公たちの安全を信じるのみだった。

と、いう事で、映画はまず収監された理由を、意外にもあっさりと描く。

親近相姦のレイプの被害者、マーガレット。(レイプした側の男は劇中では罰せられている様子はあまり見れなかった。しかし、マーガレットは一方的に白い目で見られる)

男にもててただけで、処女にも関らず「不良」「売女」「あばずれ」と呼ばれ、”監禁”されるバーナデッド。個人的に、最初見た時はそうも思わなかったけど、映画が進んでその狂暴性と、「生」に対する執着心から見えてくる野生に、どこかミシェル・ロドリゲスの強さを感じた。

そして、結婚しても居ないのに娘を産んだ、と言うだけでこれまた白い目で見られ”監禁”されるローズ。ちなみにクリスピーナも同じ経緯で”監禁”されている。

どれだけそのレイプが凄惨であろうと、どれだけ周囲の対応がおかしく映ろうと、その後の修道院の、一種の狂気の前にはたいした狂気には見えてこない。そして、この短い間で映画の時代背景を俺みたいなバカにもわかりやすく説明してくれる。要するに、この時代は(今でもそうなのかもしれないけど)女性の地位が極めて低く、そして宗教とか言う訳の分からない概念を重んじていた。そして、少しでも世間体と違う事をしてしまえば、少しでも体を売る様に見えてしまえば、白い目で見られて矯正される。そんな、狂った時代だった。と。(この時代を「狂っている」と言う資格があるのか、そしてこの時代を「狂っている」と呼んでいいのかどうかは別にして)

そして描かれる一種の地獄。労働している年代の幅広さに圧倒される。院長や修道女達の腐敗ぶりを曝け出す。宗教、と言う訳の分からない物を徹底的に叩き上げる。そしてその中で強く、生きようとする少女達。

俺なんかがこの現実を知った所で何になる訳でもない。けど、過去にこんな事実があった、と言う事、そして宗教の二面性、と言うのを知っておくべきなんだと、一人感心したのでありました。

この映画には徹底的なまでに希望は無い。一応被害者、少女たちの視点で物語が語られているのだが、彼女たちは希望が無い事を知って希望を信じる。あまりに虚しい。その上、修道院内では殆ど会話をする時間が無い(様に描かれている)。だから友情なんて結ばれない。「自殺させたくない」。ただそれだけであって、それは友情ではない。友情なのか、それともタダの「クラスメート」程度の存在なのか、な人間関係。閉塞と孤独の地獄。

俺だったら三日で自殺だな・・・(ぉぃ

脱走した時の、外界の溢れる光も、『ショーシャンクの空に』の様な、単純な自由への解放、ではなく、いつ戻されるか分からない、と言うだけの恐怖でしかない。どうして普通に生きてるだけの彼女たちが、宗教上の「勝手に作っただけ」の不条理な倫理から反れているから、といって罰せられなければならないのか。俺は答える権利も無いただの無知なガキでしかないので、ただ呆然と主人公の安全を祈るしかなかった。

そして、修道院を出るには「神の許し」か「親父のお許し」が必要となる。一度脱走した時に親父が連れ戻してくるシーンや、脱走した後のプランで自分の家に逃げ込む事を全く考える事が出来ない、と言うのもこの修道院以上に悲惨な現実であると思う。だからマーガレットを迎えに来た弟の存在こそ、まさに(マーガレットにとっては)少し遅かったが希望であり、他の少女からしてみれば絶望でしかない。なぜなら彼女たちは、そんな奇跡が起きる訳無い、と諦めていたりするから。しかし、バーナデッドは孤児なので帰る家が最初から無い。だから体売ってでも、人を殴ってでも逃げ出そうとする。

あの、一種の刑務所と言える、修道院からは、誰かに助けて貰い家に帰れる、と言う事は殆ど(全く)無く、自らの力で脱出し、その後、自らの力で生きていくしか道が無い。まさに絶望。中でも外でも孤独と閉塞の絶望的なコラボレーションな訳です。刑務所よりも、悲惨で出口の無い絶望。

裸にして「大きいおっぱいだーれだ」だとか「陰毛は誰が一番凄い」とか言ってみたり、実は「イノセントな修道女」は汚れきって金とセックスに溺れた糞野郎だったりしても、摘発できず、中に居るしかない。外に出ても愛する家族の下に帰れない・・・って、なんか戯言書きすぎですね。すみません。

本当に、悲惨な映画。最初から最後まで話の内容は予測がつく。だって最後に主人公達が修道院の中で死ぬ、なんて結末用意したら映画として成り立たないのだから。ハードだった・・・けど、見てよかった。

正直、ダラダラと感想書いてる訳だけど、本当は、見終わった時には言葉なんて出なかった。あまりに強烈。一方的に特定の宗教を批判しているだけにも見えるかもしれないが、事実として、宗教を信じてる奴らがこうやって「神がお許しになる」だの「シーツと共にアナタ達の肉欲を綺麗に洗う」だの言って、要するに「黙って労働すりゃ神様が助けてくれるんだよ」だなんてほざいた所で、所詮そんなの狂った世界にしか見えない。

そして、その宗教にのめり込んでいるが故に気付けない、狂気。嗚呼、愚鈍(←もろ主観意見)

(評価:★5)

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