原作は読んでいないけど、映画を見ていると、在日朝鮮人の差別問題より、「集団と個人」というテーマがある気がした。国家とは？人種とは？組織（学校）とは？そしてその中の「自分」とは？

でも、無駄な部分が多いように思うし、描き方もうまいとは思えないんだよな。結局、不良としての主人公に感情移入できないまま、映画は終わってしまった。それも、不良でなくても描けるようなことばかり描いて。

冒頭、いきなりドロップキックを始める主人公。何だ何だ？友達みんなが彼にボールを投げつける映像があったけど、あれ、現実の映像じゃないよね？主人公が見た幻だろ？そうか、日本人みんなが、自分をそんな目で見ていると思うくらい、ひどい仕打ちを受けてきたんだな、と、最後まで観たけど、それらしい描写はない。

彼が不良になったのは日本人に差別されてきたからではなくて、親に原因があるんじゃないか？平気で息子を殴る父。それを止めようともせず、何かあるとすぐに家を出てしまう母。

「不良になるくらい差別を受けてきた在日朝鮮人」を描いた映画でもなければ、「在日朝鮮人の主人公が、不良ならではの価値観と行動力で、新しい道を切り開いていく」映画でもない。何これ？

監督はいいものを持っている。グレートチキンレースは単純な派手さだけではなく、カメラワークもばっちりで、それにかぶさるタイトルバックも素敵。ところが、一つ一つのシーンはよくても、それらをつなげてうまく映画が完成しているとは思えない。

それからジョンイル君が刺されるシーン。周りのみんなは誰も助けてくれなくて、「現代人は都合の悪いことには、我関せず」というのを描いたつもりかもしれないけど、人が刺されても、何もしないものなのかな？以前、電車の中で病気で倒れた人を目撃してしまったけど、傍にいた人たちは、みんな手当てしたり、車掌を呼びに行ったりしていたぞ。後半、主人公と父親が殴りあうシーンでは、なんだ、みんな拍手したり写真撮ったり、我関せずじゃないじゃん。そうか現代人は野次馬根性だけはあるのか。

柴咲コウ演じた桜井というキャラクターも気にくわなかったが、すでに散々書かれているし、レビューが倍に膨れ上がりそうだから省略。