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[コメント] 善き人のためのソナタ(2006/独)

良作だが、宣伝に裏切られた感は否めない。政治的ではあるが、より通俗的な娯楽作。
SUM

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原題かつ英題の「他人の生活」というのを、邦題のようにかえたのはマーケティング上も見事であって、確かに映画の良い部分を捉えていてそこは素直に賞賛したい。

ベートーヴェンのピアノソナタ「熱情」を引き合いに出して一度だけ本作で演奏されるオリジナル曲「善き人のためのソナタ」、まぁ悪い曲ではない。しかし、ヴィースラーが「善き人」になったのはそれだけが理由ですか?いや、もちろん、芸術家の死と、生活をのぞき見ている人物への共感などあったのかもしれないが、シュタージのエリートが、しかも自分の身の危険にさらしてまでの行動を取らせる理由がわからない。そして、実際に「こんな善き人など現実の東ドイツにはいなかった」という批判もある。

予告編からしても、もっと視覚・聴覚に訴える演出に富んだ作品かと思ったがそうでもなく、核心部分の登場人物の心理も今ひとつ説得力がない。そして、クリスタの死もご都合主義的である。まぁ、自己なのか自殺なのかはっきりさせない部分は演出がうまいと言えなくもないのだが。死の必然性はどこに?

それでもなお、東ドイツの監視社会と、その後の崩壊を描いた作品としては上手いし、反政府活動を成功させて操作の手が及ぶ辺りのスリリングさはほどほどに娯楽作としてよく出来ているし、ラストシーンもにくい。

DVDでは、山積みされている書籍「善き人のためのソナタ」をヴィースラーが手にした所で書名が明らかになるのだが、ヴィースラーは書店の外から大きく同書のポスターが貼られているのをじっと見て店に入っている。その時点で書名からヴィースラーに内容がわかったかどうかはわからない。しかし、字幕の出し方としては間違っている気がするのだが、まぁいいか。ラストの本の購入のやりとりでこの映画は救われる。それで大団円でもなかろうが、映画としてはこれでよしということなのだろう。

(評価:★4)

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