コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ブロークバック・マウンテン(2005/米)

カウボーイ(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画内で登場するやくざやマフィアの多くが「義理」や「虚無」の価値観を体現するように、映画の中で登場するカウボーイは、「孤高」や「純朴」といった価値観を体現した存在として描かれたり、想像されたりする。『真夜中のカーボーイ』でカウボーイの格好をした主人公が都会の中でドン・キホーテのように「純朴」を保とうとしてやがて汚れていったように、本作の主人公イニスも現実世界で「純朴」を見失いながらも、最後は見事に「孤高」の価値観を体現している。騎乗したカウボーイのシルエットと夕景が溶け合ったニューオーダーのシングル"regret"のジャケット写真が美しく映るように、最後に至って冒頭のブロークバックマウンテンの風景が色鮮やかに美しく思い出される。

実に素晴らしい作品だと思うのだが、一つ食い足りなかったのは、ジャックの扱い。原作は老いたイニスが過去を振り返る体裁のようだが、本作は形式的にはイニスとジャックの二人を主人公として等価に描いている。しかし、そのわりにイニスの描写が重厚なのに比して、ジャックに関する話は通俗的な通り一遍の話に終始し、彼を主人公として描写しきれず最後は突然突き放してしまったように思えた(『アイス・ストーム』でも同じようなことをやっている)。これなら原作と同様、イニスを主体にして、ジャックを客体として描いていればと感じた。

ジャックの死後、彼の家を訪問したとき、イニスはジャックが他の男と関係をもっていたことを確信する。逆説的かもしれないが、だからこそラストでイニスはジャック一人に傾けていた一途な愛を卒業し、気の多いジャックや若き日の自分、そして二人を取り巻く社会すべてを赦すような大きな愛情(同時にそれは一種の「諦念」でもある)を得た。私はそのように感じた。『トリコロール/青の愛』を思い出した。(★3.5)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。