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[コメント] 桜桃の味(1997/イラン)

これまで何度となく挑戦してきて毎回気がつけば寝ていた映画だった。しかし今回の挑戦では最初から最後まで飽きることなく見ている自分がいた。2010.3.5
鵜 白 舞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最初見たときも思ったが、主人公は気味が悪い。何度も電話ボックスの前を行き来する主人公。電話を使いたいわけではないらしいが、一体何のために行き来しているのかまるでわからない。

軍隊にいる少年が同乗しているシーンでは、主人公は目的も話さず人気のない砂場へ連れて行く。普通に考えてこれはまずい状況だ。犯罪のにおいがする。とんでもない車をヒッチハイクしてしまった後悔も露わに小動物のように怯える少年。少年におかまいなく主人公は号令を強要してきたり声を荒げてみたりと怪しさを益々高めていく。

やがて主人公は穴の場所に少年を連れてくる。ここで初めて自殺後土を被せて欲しいという目的を語る主人公。初見のときとは違って今回はどういうストーリーなのか知っていたのだが、知らずに観たらもっと面白かったろうにと後悔した。だって自殺というのも狂言で少年に危害を加えるために車外へ誘っているのかもしれない。少年が逃げ出す気持ちになるのも仕方がない。どうもこの主人公は胡散臭いのだ。

この映画の説明の無さには色々と妄想をしてしまう。これからどんな事件が起こるのだろうとか。しかし予想に反して特に事件は起こらない。どうやら自殺をして土をかけて欲しいというのは本当のようだ。

こうして事件が起きそうで起きない緊張感が途切れかけたときに、小さな奇跡が起きる。人の話をまるで聞かず一方的に話すだけだった主人公が、老人の話に耳を傾けるのだ。死なない方がいいよ考え方を変えるんだ、と老人は語る。神学生のように声高に自殺を否定するのではなく、やんわりと否定して桜桃の味を思い出させる。聞いていてとても温かい気持ちになれた。小石を投げてくれと笑いかけるようになった主人公は穴に石が投げられる朝を待ったに違いない。

他のコメンテータの方も書いていたが、私もこの映画の先の見えない怖さは「激突」に似ているものがあると思う。ただ「激突」で感じたのは恐怖や映像の上手さだったが、この映画からはそれだけでない温かいメッセージを感じた。 また折に触れて見返してみたい映画だ。

(評価:★4)

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