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[コメント] 帝国オーケストラ(2007/独)

ベルリン・フィルはドイツの縮図だった」というのは実に的を射た表現だ。ユダヤ人がおり、ナチ党員も籍を置いた。ナチ協力者も熱心なもの、生きるための手段と割り切るものと様々。そして戦死者も存在した。全てが人間だったのだなぁ、という当然といえば当然の感慨が胸に残る。
水那岐

ベルリン・フィルは国家体制に尾を振らない有限会社、音楽を愛するものたちの自立自援組織だったことを知ったのははじめてであった。フルトヴェングラーやらカラヤンやら、戦後そのナチ協力者振りを批判された「一流指揮者」を擁し、しかもベルリン・オリンピックなどに積極的に参加して恥じない姿をフィルムに残されているのだから尚更だ。

しかし我らの祖父たちが「大日本帝国」に殉ずる覚悟を謳いながら、家庭に於いてはただの善良な「日本人」に過ぎなかったことを思えば当然なのだが。とは言え、その政治に対するあまりにピュアな思考が、後に彼らの不幸を孕んでゆく経緯を考えれば、それを簡単に看過する訳には行かなくなる。

「我々は戦争の先頭に立って、敵兵を撃つ事をするものではない。なぜなら、我々はあくまで音楽の徒であるからだ」と突っ張ってみても、それが宣伝相ゲッベルスの手のひらの上のダンスに等しいことを思えば哀しい。

ひとつの時代を実際に生きて、なおかつその中で己の筋を通し、名に恥じることなく生きようとするのは、およそ凡俗に出来ることではないのかもしれない。武器を取らずとも人民は容易に国家権力の忠実なる僕となりうるからだ。非戦を標榜しながら侵略者の勇気を鼓舞する尖兵たれる所に我らのジレンマは確実に息づく。この矛盾を見極めるからには、やはり時間を友とするしかないのだろう。

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