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[コメント] 再会の食卓(2010/中国)

時代と共に変容してゆく大都市・上海を舞台に、善良なる人々の美風もまた崩れ去り、その善良さゆえに起こる悲喜劇も時代に呑まれてゆく。後に残るのは総てを吸収して怪物化してゆく都市のみであり、歴史にさえ残らない人の営みは破片すら残さず忘れ去られるのみだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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主役三人の悲喜劇は、三人のうちに悪人がいないがゆえに可笑しくもまた悲しい。彼らは古い体制の中国という国家の犠牲者であり、その変容の先頭に立つ上海のなかであまりにも無力、かつ滑稽な存在だ。

おのれの幸福を妻と家族に捧げ、軍人でありながら出世の道をも放り投げた老爺。その彼への恩を身に沁みて感じながらも、過去の夫への幻影のような愛に心動かされる妻。そして運命に翻弄されつつも、かつての妻を人生の最後の伴侶として迎えたい元夫。彼らは一人たりともエゴのために傷つくものが出ることを望まない、古いタイプの人間たちだ。それを演じる人々もなるほど巧いベテラン揃いである。それだけに、三人のお互いを思いやりあう優しさは活きることなく、みな何のために苦しんだのか判らないラストは痛い。

食卓という中国社会における特別な場所が、家族の離散とともに寂しい終局に追い込まれ、この物語は終わる。急速な都市化の進むなか、「決して俺たちは無駄なことをしたのではない」という老爺の呟きは、否応なしに時代の進行を観客に見せつけてやまない。

(評価:★4)

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