コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 空の青さを知る人よ(2019/日)

「♪青春とは、人生のひとつの季節ではない。心の在り方をいう」なんて嫌味な歌がある。嘘つけ。人生の冬になって自分の欲求のままに飛び回ってるのは松平健だけだ。春が輝くのは過ぎた季節だからであり、そのただなかにいる者は振り返らずただ奔走するのだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







超平和バスターズのファンではないが、今回ばかりは連作を逃さず観て愛想を尽かさなくてよかった。正直、前2作のように青春を描いてオヤジが付いて行きかねる青臭さはなかった…というのは違うな。若山詩音や「しんの」の青臭さたっぷりだが、それが充分に扱きとれる春を過ぎた作者たちの共感への架け橋は強固であり、なおかつ空飛ぶ少年期にもうついてゆけない中年男女の、その年齢ならではの逆境へのあらがい方が、それもまた共感を呼ぶものだからだ。

若山の現状との戦い方は限りなく愛おしいし、若き吉沢亮の有言実行ぶりも爽快きわまりない。だが、中年以上の観客にそれをなぞって良しとする恥ずかし気のなさが横溢するような作品ではないのだ。中年になった姉・吉岡里帆や恋人はもどかしく偽悪的ですらあるが、語らずして子供たちに「彼らにも戦い方がある」ということを誇らせてやまない存在でもある。「嘘つきのオトナ」の名で青春映画でクサされ続けた我々だが、スタッフはそこに生き生きとした「朱夏」のありかたを示し、自己投影の余地を残したのだ。「一粒で二度おいしい」って奴だ(違うか)。

今更な話だが、「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」という言葉の後半は日本だけのデタラメだ。だが、俺は昔からこの後半が好きだった。大海を知るのが至上の目的か。空をはかる者もそれはそれでいい生き方じゃないか。言葉は自分を救ってくれるような気がした。この押しつけがましくないエール。俺には有難かった。そんなわけで、むしろ松平健にこそ年齢の近い俺もまた、「夏」や「秋」を愛する機会を与えられたかのように感じとれた作品だった。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。