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[コメント] カオス(1999/日)

本当によく練り込まれた脚本、周到な演出で、見事に展開に引き込まれていきます。これは間違いなくブラボーな出来です。が、
浅草12階の幽霊

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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==以下間違ってたらご指摘いただけると嬉しいです==

[ゴミをすてるときはきちんと中身を確かめてから捨てよう]

本作について、僕は物語のロジック的にはそれほど違和感を感じず、むしろ役者の演出にこそ疑問を感じています。この作品の「おおきな穴」とは、これでは無いのでしょうか?

便利屋が「愛人(中谷美紀)の死体だとおもって本妻の死体を埋めに行く」行動が、どうしても僕には説明不足のような気がします。よく考えりゃ「なるほど!」と手を打てるのですが、これは人間の焦りや思いこみを利用したトラップ---

{状況から見ていまさら必要でない筈であろう確認より、処理を速く速くすませてしまおうとする((俺は死体の顔なんて見たくないんだ!))、というもの。たしかに本作の中では、ドライヤーで首をしめられて殺されている彼女の顔はそうはっきりと描かれていない…}

---を利用しているので、 「思いこむ人間=便利屋」の人間性や行動、便利屋を取り巻く状況などを、相当にしっかり描かないとピンとこない。

その点について、僕はどうしても萩原聖人の演技がどうしても中途半端に見えてしまう。彼が一番、なんだかリアリティのないお芝居をしているかのようで、僕にはピンとこないのです。

ついでに本妻さんと愛人さん、俺には愛人さんの言うとおり「どこが似てんの?」と…。中谷ファンな僕としては、わかってやれよと説得されても承伏しかねます。

「作りものめいた雨」

もう一つ、またリアリティのお話なんですが、本作には雨のシーンが多数出てきます。しかしこれらのシーンすべてがあまりにも作り物めいていて、ちっともリアリティがない…。雨がうまく表現できていない。 雨に限らず、この映画全体のシーンがすべて八十年代以降の日本映画的な、紋切り型な嘘くささに溢れてしまっている。どんな場面でもフラットに俳優さんにもセットにも当たる照明とか、さもドラマティックな音楽だとか。(曲調そのものは嫌いじゃないんだけど、愛人と便利屋が絡んでいるシーンなどには音楽はいらないと個人的に思います)これは見ていて悲しかった。ドラマティックではあるが映画的な愉しみが薄い。職人芸が裏目にでていると僕は思うのです。

演出・脚本の巧みさに心を奪われて気にしなければいいのかもしれませんが、リアリティ重視の作家性溢れたエラそうな近年のミニシアター系作品が好きな、でも最近そういった作品も、そんな作品が好きな自分にもかなりうんざりしているエラそうな私にとって、このリアリティの欠落は『たとえ、わざとやっているとしても』ちょっと納得できないものでした。

でもね、この映画をみて本作の作り手のみなさんが、作家性重視な流行とは別の方向で日本映画の可能性をみせてくれたように思います。これには拍手をおくりたい。って拍手だけでじゃだめ(映画はヒットしてなんぼ)、かな?

(評価:★4)

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