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[コメント] 武士の一分(2006/日)

光を失ってからの彼の芝居は鋭い眼力が漂っていた。特に緒方との打込みのシーン、「盲人だと思って侮り召さるな、と伝えよ」と中間の笹野に伝令を頼む件は男の僕から観てもカッコイイと思った。「愛する者の為に自分の身を他の男に捧げる」女性、う〜ん、複雑。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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なぜ木村拓哉主演なのか。あざとさを感じつつも何となくマスコミに煽られて観賞。光を失うまで木村の演技はテレビの連ドラ並み。光を失ってからの彼の芝居は鋭い眼力が漂っていた。 男としての見地から見ると、壇れいの行動がやはり許し難い。お上からの沙汰が出るまで不用意な行動を取るべきではなかった、と思う。現に、冒頭で木村が「早く隠居していずれ道場を開きたい、生活は苦しくなるが良いか?」との問い掛けに「構わない」と答えていたのに、現状の生活レベルを維持したいが為に不用意な行動を取ったと思えてしまう。三行半を突きつけた木村の心情は痛いほどにわかる。

「愛する者の為に、自分の身を他の男に捧げる」という行為、度々男女関係をテーマにした物語の「自己犠牲」の美談とされることが多いが、何だかおかしい。今回もそう思った。伴侶がどんな情況に陥ったとしても添い遂げるのが夫婦の関係なのではないか。相手の気持ちを考えての行動ではなく、単なる自己満足な愚行と思えて仕方ない。

結果、彼女の行動は全く意味を成さなかった。番頭(ばんがしら)の口添えなどなくともお上の情状酌量があったからだが、ますます彼女が「馬鹿なことをした」女に思えてくる。

さて、木村主演の件。明らかに興行収入を意識した配役と言わざるを得ない。前半の彼の軽い演技は会津訛りのセリフに救われてはいるものの、やはり軽い。武人としての威厳が全くない。「旦那様」、というよりは寧ろ「お坊ちゃま」だ。そんな彼が「武士の一分」と言う言葉を吐いても正直、そんなもんあるのか、って感じが漂っていた。

ところが、だ。

光を失ってからの彼の芝居はテレビの連ドラでは決して観れない程の力が、眼力が漂っていた。山田組のお陰なのか、彼がこれから役者ベースで生きていこうという決意なのかは知らん。が、間違いなく想像より良かった。特に緒方との打込みのシーン、「盲人だと思って侮り召さるな、と伝えよ」と伝令の笹野に伝える件は男の僕から観てもカッコイイと思った。

果し合いのシーンは些か興醒めではあった。曲がりなりにも免許皆伝の男(坂東)が、馬場跡の上から斬りかかるとは・・・。もっと正々堂々と剣を交え、殺陣を演じ、爽快な袈裟切りで恨みを晴らすものと期待していたがどうにも消化不良だ。

クライマックスの後のシーンは必要だったか。後日談としては尺が長く蛇足のようにも思えたが、場内に女性鑑賞者のすすり泣きが多数聞こえたところを鑑みる限り、必要だったのだろう。

僕はそんな結末のお涙もんは要らん、と思ったがね。

余談だか、カメラのピントが奥にいる木村に合っていながらも、画面手前で当たり前に自分の仕事を黙々とこなす笹野は今後、山田組が撮影する時代劇になくてはならない中間(ちゅうげん)となるだろうことは想像に難くない。

(評価:★3)

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