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[コメント] 蟻の街のマリア(1958/日)

クレジットバックの音楽は讃美歌「あめのみつかいの」。序盤はクリスマスの季節で、タイトルロールの千之赫子が、子供たちにパーティの準備で教える歌がこの讃美歌なのだ(劇中の千之の科白では、この歌を「グロリア」と云っている)。
ゑぎ

 クレジット開けは、雨の降る夜。門の看板「蟻の会」。門を入ったところに、子供たちと、ギターを弾き歌を唄う青年がいる。これが若き丸山明宏で、見る前はワンシーンのみの登場ぐらいかと思っていたのだが、ラストまで出ずっぱりの良い役なのだ。「蟻の街」は、この「蟻の会」と称するバタ屋(廃品回収で生計を立てている人々)が集まった部落で、浅草寺に近い隅田川べりにある(というか、1960年まで実在していたのだ。そのあたりの顛末も本作終盤描かれる)。

 蟻の会の会長は佐野周二。その妻が桜むつ子。参謀的な位置づけで、皆に先生と呼ばれる南原伸二。このあたりが幹部だが、桜むつ子が冒頭で紹介された後、ラストまで出てこないのはちょっと違和感があった(端っこにでも映っていのか)。

 千之赫子は、裕福な家庭(父親は斎藤達雄で母親は夏川静江)のお嬢さんだが、敬虔なクリスチャンで、子供たちを支援したいと云ってやって来る。最初は住民にも子供たちにも相手にされないが、クリスマスパーティなどを通じて皆に受け入れられていく。その一方で、東京都の土地を占拠しているバタ屋を追い出したい都庁との攻防が描かれるのだが、南原は、千之に広告塔としての価値を見いだし、街を存続させる戦略として、打算的に彼女の支援を受け入れるのだ。南原が千之に「あなたは蟻の街のマリアを演じる女優だ」とハッキリ云うシーンがあり、じゃ、演出家はあなたですか?と問われた際に「演出家は天主様」と云う。別のシーンではクリスチャンは嫌いだと云う科白もあり、定期的に訪れる教会の神父と仲良くもしていて、南原とキリスト教との関係、南原のクリスチャンへの思いには、複雑なものがある。しかし、本作の南原、ルックスはカッコいい。

 蟻の街の住人で、目立つ人物を記載しておきたい。まずは、いつも皆を仕切っている三井弘次。中盤、牛乳瓶200本盗んで雲隠れする多々良純水原真知子の夫婦。多々良と喧嘩ばかりしている須賀不二夫。他にも、中村是好星ひかる永田靖浜村純と出てくるが、元オンリーさんという岩崎加根子が、いつまでも千之に反感を持つ人物として目立つ役割りだ。千之の指に棒を挟んで、強く握るシーンがいい。こういう役も岩崎は上手い。そして、丸山の母親が飯田蝶子だ。ウチは先祖代々、日蓮宗なんだよ、という科白を何度も云う。あと、子供たちの演技も、皆上手い。誰一人、不自然な芝居をしないのも演出部の力量だろう。

 というワケで、登場人物のさばき方、キャラの立たせ方も見応え十分だが、それに負けず劣らず、蟻の街の廃品が積みあがったセット美術の造型は見事なもので特筆しておきたい。あるいは、隅田川の対岸にある橋側から撮ったカットと、逆に蟻の街の門側から、川べりの道と橋を撮った構図のカットもいい。橋の上を、書割の自動車が通るのだが、こういう細部への凝りようが好きだ。空、夕景などの美術も美しい。

(評価:★4)

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