[コメント] テナント 恐怖を借りた男(1976/仏)
冒頭クレジットバックがアパートの裏窓のショットだ。これがクレーン移動とパンとティルトを繰り返して見せる、見事なショットになっている。またこの冒頭で既に、窓の向こうに見える人物の顔が他の人物に変化する、という演出も見られるのだ。
ただし、窓も鏡も階段も生活音も、ロマン・ポランスキーが住むことになるアパートの建物の事柄だろう、ということで云えば、この建物が主役とも考えたくなるのだが、しかし、別の切り口で云うと、役者としてのポランスキーの存在感も圧倒的であり、やはり、「ポランスキーと窓」の映画だと云いたくなるのだ。特に、ポランスキーの部屋にはトイレがなく、共同トイレが彼の部屋の窓から向かいに見える場所にある、トイレの窓と相対している、という空間設計が実に画面造型に効いていると思う(これも窓の見せ方なのだ)。
さて、撮影はスヴェン・ニクヴィストで、例えば、ポランスキーとイザベル・アジャーニが、二人でカフェに入る場面の光の扱いなど、陶然とする美しさだが、どうも全編に横溢する、人物への寄り気味の画角が、私には気持ちが悪かった。強烈な遠近法の画面もだ。これらは、ポランスキーのディレクションなのだろう。それと、手前の人物だけにピントを合わせ、後景の人物はフォーカスを外すショットと、縦構図のディープフォーカスのショットを使い分けているのも、明確なディレクションに感じられた。例えば、初めてアジャーニの部屋へポランスキーが訪れたシーンで、手前のテーブルの彼と、奥のキッチンにいるアジャーニが、ともに焦点の合っているショットには、明確な連帯のイメージが現れていると思うのだ。
また、その他の脇役も豪華版だ。アパートのオーナーはメルヴィン・ダグラスで、中盤、ポランスキーの部屋を訪問する女性が二人、ジョー・ヴァン・フリートとリラ・ケドロヴァだ。そして、1階に住む管理人がシェリー・ウィンタース。これらの4人は、全員がオスカーウィナーなのだ。私もオスカーなんて賞はキライだが、しかし、豪華さが出るのは事実だし、もちろん、実質的に彼らの存在によって、画面が強化されているのも確かだろう。中でも、ウィンタースが素晴らしい。冒頭から要所で絡むが、ふてぶてしさでは一番だ。あと、中庭や吹き抜けの階段に、彼女の声が反響する音の使い方もいい。
そして、ラストの顛末のブラックユーモアは最高だと思う。全編、ニヤケながら見たのだが、終盤の畳みかけには、声を上げて喜んでしまった。ポランスキーが自分自身を完全に突き放している、というのが真に道徳的であり、かつ倒錯的でもあり、実に楽しいのだ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。