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[コメント] 雲がちぎれる時(1961/日)

断崖の上から眼下の海岸。ティルトアップして、灯台のある断崖の風景。こゝは足摺岬。バスが行く。運転手は佐田啓二で、車掌は初々しい倍賞千恵子。倍賞は「今度、お母さんと会うて」と云う。途中で伊藤雄之助が運転するバスとすれ違う。
ゑぎ

 ある日、始発のバス停(中村)から、サングラスをした有馬稲子が乗り込んでくる。この有馬の登場からバス内を移動するカットが、とても雰囲気のある良いカットだ。佐田は、有馬が終点(清水)で降車する時に彼女に気づき、後を追い、夜の港の方へ歩く。後景に船が行く、こゝもいいカット。こゝから佐田の回想で、有馬と佐田の子供時代の出会いの場面にさかのぼる。実は、このまゝ佐田主体の回想形式で、終盤まで行くのかと思ったら、10代後半ぐらいだろうか、佐田は、ずっと有馬のことを想っているが、有馬は大阪に出ることになり、こゝからは、有馬の回想にバトンタッチする、という面白い構成だ。

 有馬の大阪時代の場面は、汚れた白衣を着て、十三病院の玄関を掃除する姿から。こゝに仲代達矢が子供を抱えて登場する。彼は、日系二世の米兵で、伊丹基地の近所の子供が倒れていたので連れて来たと云う、心優しい男なのだ。これが有馬と仲代の出会いの場面だ。有馬は仲代と一緒に生活するようになる。ちなみに彼女はこの辺り以降から、関西弁を喋らなくなる。これはちょっと不思議。詳細は割愛するが、有馬には仲代との間に子供もできるが、仲代が朝鮮戦争に出兵することになり、仲代と同じく日系米兵だった渡辺文雄を頼るようになる。渡辺は金の代わりに体を求めるが、有馬が別れ話を切り出すと、激昂するところが怖い。渡辺と関わった有馬のルックスは、いきなりケバくなっており、他の男も客として取らされているのだろうと思わせる。ちょっとこの辺りの展開は性急すぎるようにも思う。

 回想開けから、佐田は人が変わってしまい、憑かれたように、山道、峠道を猛スピードで運転するようになる。この場面は、かなりヒヤヒヤさせられる。あるいは、ほとんど結婚の約束もしていたと思われる倍賞のことは放っておいて、有馬が勤める飲み屋(お座敷サロン)に毎夜通うようになる。終盤では、渡辺文雄も、妻子や事業を捨てて有馬に会いに来、修羅場が現出するという、本作の有馬は、凄い運命の女、ファム・ファタールなのだ。さて、佐田と有馬の関係はどうなるのか、先輩の伊藤雄之助の忠告を聞き入れ、倍賞の元にもどるのか、というのが収束のポイントだが、ちょっと唖然とするようなツイストの効いたエンディングが待っているのだ。全体に作り過ぎのドラマと感じるし、性急な演出も散見されるのだが、それでも充分に面白い作品だ。

#備忘でその他配役等を記述

・後半で有馬が勤める飲み屋(お座敷サロン)の女将は日高澄子。有馬は墓を建てるために清水に戻って来たのだが、墓石屋は中村是好

・有馬と仲代のアパートに、北斎の赤富士の絵がある。なぜか、渡辺の家にも、北斎の富士山の絵。日系二世の嗜好ということなのだろう。

・佐田のアパートには、モディリアーニの婦人像(葉書サイズ)が貼ってある。有馬に似ているから、ということだと思う。このあたりの説明描写は無い。

(評価:★3)

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