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[コメント] ボルベール 帰郷(2006/スペイン)

これは良く出来た映画だ。まずは風の映画。ファーストカットの墓地の横移動ショットから強い風が吹いている。沢山の発電用風車。東風が人を変にする、という科白。そして、祖母、母、娘という三代の女性の映画であり、同時に、3組の姉妹の映画でもある。
ゑぎ

 3組とは、主人公のライムンダ−ペネロペ・クルスと姉のソーレ−ロラ・ドゥエニャス、この2人の母親イレーネ−カルメン・マウラと姉のパウラ(クルスからはパウラ伯母さん)、そして、パウラ伯母さんの家の隣人アグスティナ−ブランカ・ポルティージョとその妹の3組。

 また、本作も相変わらずの美しい色遣い。どうしてアルモドバルの映画の画面は、こんなに綺麗なのだろう。なぜ、もっと多くの作家がこれを目指さないのだろうと思ってしまうのだが、もちろん、これが現実離れしていると感じる人もいるだろうし、これが相応しくない題材の映画の方が多いのかも知れない。しかし私は、この美しさこそ映画的現実だと思うのだが。特に誰もが指摘する赤色の使い方には陶然となる。キッチンに広がった血液が、ペーパータオルに染み込むショットの美しさ。

<以下ネタバレ注意!>

 さて、この映画が、とびっきり良く出来ている、と感じさせるのは、何と云っても、パウラ伯母さんの葬式から帰って来たたソーレの車のトランクに、お母さんのイレーネが出現する場面からだろう。こゝからも、少なくも私に限っては、ほゞ最終盤まで、ずっと、このお母さんは幽霊だと思いながら、なんて面白いんだろうと思いながら、見ることになった。幽霊をロシア人ということにして自宅に住まわせ、美容師の仕事も手伝わせる。ロシア人だからスペイン語が分からないと思っている美容院の客たち(幽霊をロシア女と呼ぶ)。

 ライムンダ−クルスが、撮影隊の打ち上げパーティで唄う歌(この歌の題名が本作のタイトル。かつてお母さんが教えた歌)を聞いて涙するのも、私は幽霊だと思っていたのだ。いや、実を云うと、ラストの「幽霊は、泣かないのよ」の科白まで、本当の幽霊じゃないかという見立ても捨てきれないのだが、私が本作を良く出来ている、という要因は、このお母さんの描き方においてなのだ。

 ライムンダの夫パコの殺害と死体遺棄のクダリや、アグスティナの失踪した母親とライムンダの父親の関係、ライムンダ自身と父親の関係(ライムンダと娘パウラとの関係)の真実、冒頭の墓には誰が眠っているのか、といった部分は、特に「良く出来ている」という私の感覚の中には含まれていない。死体遺棄の部分は、普通にスリリングで面白いレベルだろう。事件の前に、包丁を洗うライムンダの真俯瞰ショットを見せていたり、バスルームで服を脱ぐ娘を見るパコを挿入していたりする部分は、上手いとは思うけれど。

(評価:★4)

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