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[コメント] 湖のランスロ(1974/仏=伊)

騎士たちの決闘シーンから始まるが、これが非常に緩やかな動作なのだ。しかし首が落ち、血が大量に流れる。例えば『フォルスタッフ』の合戦シーンなどとは対極のアクション演出だ。
ゑぎ

 この後、五騎が森を行くカットを繋げ、戦争映画っぽい勇壮な劇伴が流れるのだが、やっぱりブレッソンのアクション映画は、他のどんな映画にも似ていない。

 例えば、馬の顔面のクローズアップは何回か出て来るが、人物の顔のこんなアップはなく、寄ってもバストショットレベルだ。本作の特異点は、何と云っても、人馬とも足元というか、下半身ばかり映す点だろう。馬の下半身ってよく分からないが、要するに、鞍や腹帯から下の足元を映すのだ。アップではなくとも、細部の運動を注視させる演出だ。また、歩く足を含めた、同一動作を反復するカッティングも頻出する。馬の背に鞍敷(くらしき)を乗せる、鞍に人が跨るといった動作、あるいはヘルメットのバイザー部分を下げる動作の反復など。

 こういった省略と反復で非常に面白い効果を出しているのが、馬上槍試合のシーンだろう。走る馬の足元。バグパイプのような楽器の演奏。竿にあがる旗(対戦する選手のアナウンス)。槍で突き落とすダイナミックな短いカット。観覧席の王とその甥のゴーヴァン。これらのカットが何度も何度も繰り返されるのだ。

 あと、騎士たちが、日常的に(合戦だとか試合ではない場面でも)、ほとんど鎧を着て生活していることに違和感があったのだが、だからこそ、ランスロと王妃との密会場所で、ランスロがいきなり鎧を脱ぎ出すシーンには、あっと驚かされた。鎧を脱いで二人はハグをする。鎧があると、ハグもできないことが、視覚的に示されるのだ。ずっと騎士たちが鎧を着用している意味(映画的意味)を認識させる、見事な演出だと思う。

 終盤は、ランスロと王妃との問題以外にも騎士モルドレの裏切りなど、怒涛の展開になるのだが、矢張り、冒頭と同じ調子で、激しいアクションシーンはなく、多くの死が示される。このあたりは省略が過ぎる感もする。尚、ブレッソンらしい手の所作の演出は、王妃が導く。彼女とランスロの手、彼女とゴーヴァンの手。王妃が男性の手を取る所作だが、いつもほど強烈な、目に焼き付くような運動はない。

(評価:★4)

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