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[コメント] 黒い十人の女(1961/日)

題材的な面白さと配役の妙、あるいは市川崑らしいブラックユーモアが冴える部分も散在し、得意の細かなカッティングが奏功する部分も勿論あって、多くのファンを持つ映画だと認識しているが、私には、市川の中でもまあまあの作品に思える。
ゑぎ

 もう梗概には一切触れずに、私が感じた、良い部分、よろしくない部分の順に書き留めておきます。まず、船越英二をめぐる十人の女たちの中では、妻の山本富士子と女優役の岸恵子が勿論とびぬけて目立つけれど、その裏で、本作を支えているというか、真の主人公と云っても過言でないほどの重要な役が宮城まり子であること。オープニングの、いきなりの佳境突入感も良いと思うが、その中で宮城が登場し、空気をガラリと変え、彼女が狂言回しとなる、なんて扱いから既にいい。あるいは、時間が遡って岸の部屋に舞台が移り、船越が帰った後、左手を吊った岸田今日子と宮城が押し入れから出て来る場面。あるいは、テレビ局の食堂で中村玉緒が宮城の足を引っ掛ける場面から始まって、社屋の裏で中村とキャットファイトになるシーンの宮城も実にいい。さらに終盤の、壊れてしまった船越の前に現れた彼女をジャンプカットみたいに繋ぐ部分なんかも好きだ。

 その他の良い部分ということでは、テレビ局内のセワしなさを見せるショットを繋ぐシーンは書いておきたい。局内の人の密度を強調したパンニングの多用。船越が歩き回って、大辻伺郎倉田マユミ永井智雄なんかと会う場面のフルショットの構図。そして調整室のシーンのスタフたち(夏木章三角八郎飛田喜佐男ら)のスピーディーな描写(クレイジーキャッツの特出もある)。この後の、窓の月を見る船越から、屋上で駆け出しの女優−森山加代子と出会い、いきなり抱きしめるというシーンの清涼効果も特筆すべきだろう。こゝだけ音楽も変わるのだ。

 そして、砂丘のような場所で十人の女に囲まれ、薬を飲まされる船越のイメージシーンは、ビジュアル的には最もキャッチーな部分であることは誰もが感じるところだろう(ローアングルの強さ!ただし、私はこゝもちょっとワザとらしく思うが)。また、クライマックスと云っていいだろう、山本の店の2階に、十人が揃った中での銃撃場面。実弾か空砲かのサスペンスはハラハラさせるし、右往左往する中村や倉田らと、腹をくくった岸と宮城との対比も良い部分だと思う。しかし、このシーケンスの人物の出入りの演出(階段の使い方など)は、いまいちスマートさに欠けると思った。

 さて、本作の私にとっての欠点の第一は、上に書いた発砲シーン以降の終盤が冗長に思える点だ。こゝは岸恵子にフォーカスがあたる彼女の見せ場であり、勿論その意味での見応えはあるのだが、こゝにいたっての、船越の矜持の発露には違和感を覚えるし、動きの少ないプロットにはイライラさせられたのだ。あと、中盤だが、山本の店の座敷で、岸と山本が対峙する場面があるが、このシーンの岸が、こゝだけメイクが異なり全然綺麗じゃない、という点や、船越が夜遅く宮城の元から帰宅したシーンでの、ベッドに寝ている山本のブサイクな顔を撮った演出は、市川らしい意地悪さ。どうしてこんなことするんだろうと思う。

#備忘でその他の配役等を記述。

・テレビ局で中村玉緒と絡む若いアナウンサーは伊丹十三(伊丹一三)。

・岸の店にいる有力者風の男は伊東光一

・警察官役の浜村純の登場は、ニヤリとさせられる繋ぎ。

・船越と山本の自宅の掃除婦(?)で村田扶実子

・終盤のパーティシーンの司会は早川雄三

・他の「十人の女」では、局の衣裳係の紺野ユカがよく映っている。

(評価:★3)

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