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[コメント] 心の日月(1954/日)

序盤と最終盤は飯田橋の映画。中盤は、銀座の映画。三越と有楽橋が印象的な舞台となる。また、これも木村恵吾らしく、全編アオリの映画。鉄橋を走る汽車の遠景ぐらいか、仰角じゃないのは。
ゑぎ

 開巻は、汽車の中。夜汽車。通路からの仰角ショットだ。ボックス席の水戸光子。その前に若尾文子がいる。二人は初対面。水戸は若尾を気に入り、名刺を渡す。銀座のマダム。水戸が新橋駅の停車時刻を確認すると、若尾は市ケ谷見附は東京駅からどれくらいですか?と聞く。若尾は岡山から家出してきたのだ。

 続いて、若尾が、飯田橋駅の前の公衆電話から、先に上京している菅原謙二のいる山陽寮(岡山県人寮)に電話をかける場面。こゝからの二人のすれ違いは、もうクド過ぎるのだが、しかしカット割りはきめ細かに見せる(もちろん全部仰角)。ま、どうして2人とも、改札が他にあることを確認しないのか、イライラするし、菅原も含めて地方から出て来たばかり、というだけでは納得できないレベルだけれど、これはそういう体(てい)だと思って見るしかない。菅原の友人の三田隆が、飯田橋駅にはもう一つ入り口があると教えてくれるが、既に遅し、結局、若尾は5時間以上待ってあきらめ、姿を消した後だった。

 次に若尾の街を歩く姿が、銀座のネオンサインを多重露光で映しこんだショットで表現される。こゝで、水戸のバーを訪ねるのだろうと思わせておいて、若尾がいきなり会社社長−船越英二の秘書になっている場面を繋ぐ、というのは驚かされる構成だ。会社から帰宅すると、水戸のバーのバックルーム、という見せ方で、水戸を頼ったシーンは割愛し、そのコネクションで、会社勤めをちゃんとしている、という状況を簡潔に見せるのだ。

 この後、若尾と菅原の変転やニアミスに関しては、当時の映画らしいスモールワールド攻撃が炸裂し、ひどいメロドラマとしか思えないけれど、しかし、例えば、次第に船越が若尾のことを気に入っていく様子を、女子社員2人の会話(噂話)で表現するのもオシャレだし、本作のプロット構成はかなり、凝っていて、クレバーさを感じさせるものだ。他にも、ほどなく船越の妻の村田知栄子が若尾を勝手に辞めさせるのだが、こゝもすぐに、銀座(日本橋?)三越のハンカチ売り場の売り子になっている姿を繋ぎ、水戸のバーのスポンサーで水戸の情人−菅井一郎の紹介で就職したと分からせる、という大胆な省略の連打を見せるのだ。尚、菅井は若尾を騙して待合に呼び出し、手籠めにしようとする、という良い見せ場が与えられている。こゝは、服が破れた姿で帰宅する若尾を見せ、レイプされたとばかり思わせておいて、水戸に問い詰められると、フラッシュバックし、純潔は守ったということが示される、という構成だ。

 その後、三越にしばしば船越が来るようになる。こゝは、彼の妹−立山美雪が一度偶然来て若尾に気づき、船越に伝わった、という理屈がある。船越は来る度にハンカチを1ダース買う。よくハンカチを買う人ね、と他の店員。若尾が三越の同僚と映画を見るシーンは、デ・シーカの『終着駅』か。こゝで、菅原と立山の二人に遭遇する(菅原が立山と一緒にいる仔細は省略する)。逃げるように映画館を出る若尾(『夜ごとの美女』の看板も見えたと思う)。菅原、追いかけて若尾が乗ったタクシーの窓からメモを入れる。内容は「有楽橋で待つ。7時から10時まで。毎日」。そして、雨の日も風の日も待つ菅原の場面となる。

 そして、本作はクリスマスの映画でもある。窓外の雪。窓からトラックバックすると、船越が待つ個室、というショット。続いて、有楽橋の上は、軽い綿のような雪が降っている。若尾はタクシーで船越のところへ向かう途中に降り、有楽橋へ。しかし、この日に限って菅原はいない(友人の引越しの手伝いをしている)。若尾は、やっぱりウソつきと思ったのだろう、メモを破って捨てて、船越のところへ向かおうとする。またのすれ違いで、菅原遅れて来るが、同一ショット内で、タクシーに乗る若尾を縦構図で見せるのだ。実は、この雪のクリスマスの場面で、やっと二人は再会できるのだろうと、私は既に感動していたのに、がっかりしてしまったのだ。しかし、この構成もそうだが、こちらの予想を裏切り、驚かす展開が、やっぱり上手いと思う。もっとも、エンディングは予想通りの帰結だが、出番は少ないが船越の男前が際立つ映画でもある。最終的には大満足だ。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・冒頭、汽車の中で、水戸光子とトランプをしている女給は杉丘毬子か。

・山陽寮の寮長は宮島健一。寮生で黒田剛がワンカットのみ。山陽寮のスポンサーで、若尾の結婚相手だった有力者は高松英郎

・船越の会社の総務部長は藤原釜足。社員には他に高品格の顔があった。

・菅井が若尾を連れ込む待合「新月」の女中は香住佐代子

(評価:★3)

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