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[コメント] 灼熱の魂(2010/カナダ=仏)

強い画面の溢れている作品だが、何と云っても最強なのは、ナワル−ルブナ・アザバルが息子を捜して南部を旅するシーケンス、ナワルが十字架のネックレスを外しスカーフで頬かむりし、バスに乗った後の、バス炎上までの場面だろう。
ゑぎ

 こゝは最強の演出だと思う。なんて非情なロングショット。こゝが強過ぎて、他の場面が霞んでしまうぐらい突出している。開巻は、溶明すると椰子のある風景。こゝからトラックバックし、窓枠がフレームイン(屋内のカメラで後退移動したショットだと分かる)。そして移動とパンして頭を刈られる少年が映る。兵士と少年たち。カメラ目線の少年にドリーで寄り、アップにする。流麗なカメラワーク。この場面も終盤には、誰のいつの事柄なのかが、ちゃんと種明かしされる趣向になっていて(尚且つかなり震撼とさせられる)、この辺りの構成も上手くできていると感じる。

 あるいは本作は、編集の映画だと云うこともできるだろう。この場合の編集という言葉は、主にシーン構成を指している(プリプロダクションでの設計、つまりスクリプトの出来なのか、ポストプロダクションでの設計、いわゆる編集者の功績なのか私には分からないが)。最も顕著に面白さを感じるカッティングとしては、プールを使ったシーン繋ぎで人物と時空を超越させる処理の反復がある。他にも、バスを背景にしたナワルのショットから、バスに乗っている娘のジャンヌ−メリッサ・デゾルモー=プーランへの繋ぎだとか。終盤で、男2人に拉致されたシモン−マキシム・ゴーデットが車に乗せられた後、ロングショットで停車した車から降りる人物はシモンと異なる、つまり、こゝも人物と時空をすり替えるカッティングだとか。唐突に挿入される、瓦礫の町で子供を狙撃するスナイパー のシーンだとかもだ。もちろん、上に記載した開巻プロローグの位置付けなんかも指摘できる。他にももっとあると思うが(足の踵あたりにある3つの印の見せ方なんかを上げてもいい)、これら周到に計算された構成は素直に良く出来ていると思う。

 ただし(こゝから例によって上げたり下げたりさせてもらうが)、人物の会話シーンなんかの編集、切り返しについては、フレームサイズにぎこちなさを感じる部分があるし(例えば冒頭近くのジャンヌと教授との会話シーンや、大学生時代のナワル、内戦勃発辺りのシーン)、いやそれ以上に、後半になって、シーン構成の緻密さも崩れる。その例示として、私が最も不満に感じた部分は、「歌う女」にまつわる描き方だ。拷問人によって何度も凌辱された、というエピソードを先に科白で出したのに、全然ドキドキしない弱い画面しか繋がないのだ。別に扇情的なシーンが欲しいと云っているのではない、もっと効果的な見せ方があるだろうということだ。また、その後の出産場面や嬰児を川に捨てようとする看護人のシーンの性急さも私はイマイチと思う。

 さらに、終盤の展開、暴露された真実も、とってつけたような作劇臭さ。私には、あゝ、やっぱり舞台劇の映画化だから仕方ないよな、と落胆させられるものだ(そんなこと云っても、戯曲をもとにした脚色なのだから仕方がない、演劇ファンのためにも改変しない方がいい、と考えるむきもあろうが、これを描きたいという志向性は映画向きと思えない、とまで云いたくなる)。

 尚、画面造型として、ダレッシュの街並み、建物が斜面に密集している画面は、高低と圧迫感が良く出ており、いいなぁと思っていると、ジャンヌが学校の用務員に会いに行く場面でも、ある程度のロングショットなのに、後景の畑がジャンヌに迫っているように見える、空間を圧縮したショットが出て来る。こういう画面で観客に圧を与える手練手管には感心する。

(評価:★3)

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