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[コメント] 戦火の馬(2011/米)

イングランドのデヴォン州。仔馬の出産シーンから始まる。馬場柵から見る少年アルバート。生まれた仔馬が本作の主人公、鹿毛(かげ)の馬ジョーイ。四肢とも白いソックスを履いており(蹄の上が白い)、額には白い星(十字)の模様がある。
ゑぎ

 一話目は少年アルバートがジョーイを馴らし、農耕馬に育てる話。彼の家は、『モホークの太鼓』や『静かなる男』に出て来た家屋を意識したような、美しい佇まいだ。父親のボーア戦争従軍時の大隊旗と、アルバートがジョーイを馴らす際に使われる、フクロウの鳴き真似の合図が伏線になる。しかし、家鴨の演技はディズニーらしいワザとらしさ。

 二話目。ジョーイが英軍の大尉トム・ヒドルストンに買われ、戦場へ行き、ヒドルストンと別れるまでの挿話。上官のベネディクト・カンバーバッチは青毛の馬(黒い馬)に乗る。ドイツ軍野営地への突撃シーンは、『捜索者』のインディアン掃討シーンだ。スピルバーグにしてみれば、ナチスのみならず、ドイツ軍人は虐殺対象なのだ(英軍側の大量の犬死も描かれてバランスは取りますが)。

 三番目は、ドイツ兵兄弟とジョーイと青毛の話。二頭の馬は兄に任されるが、兄弟で逃亡し水車小屋に隠れる。この挿話はとても短いし、必要だったのか甚だ疑問だ。こゝでも、ドイツ人の生命への軽視を感じる。

 四話目。水車小屋の持ち主、少女とお祖父さんの話。少女は病弱で骨が脆いという設定。落馬をすると大変なことになる、というのがスリルに機能する。なのに、初めての乗馬で、いきなりキャンター(駈歩・かけあし)をするのには吃驚だ。このあたりはいい加減。

 続いて、ドイツ軍に捕らえられた二頭の、前線の場面になる。重い大砲を曳き、上り坂を行くシーンでの、しっかり歩けない歩様(ほよう)の演出は、確かに、偽物臭い(CGというよりも偽物。ちなみに、こゝ以外では馬の画面でVFXっぽさは全く感じられない)。青毛は力尽き横たわる。戦車に対峙するジョーイ。そのまま、戦場、塹壕の上を駈け抜け、有刺鉄線が体に巻き付く。この場面の爆発的運動は凄い。こゝが、本作の一番の見せ場だろう。

 そして、エピローグは再度イングランドの場面となる。こゝは極めて美しい夕景のショットが続く。『風と共に去りぬ』を想起するが、あれよりも美しいのではなかろうか。全体に、本作の画面の美しさは最上の部類だ。

(評価:★4)

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