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[コメント] 天草四郎時貞(1962/日)

夜のキリシタンの集会。ローキーの画面。屋内の十人ぐらいの農民たち。代官所の役人(侍たち)が突然押し入り、年貢を納められるか問いただす。
ゑぎ

 侍の中のリーダ(代官)は千秋実、農民の代表(名主)は花澤徳衛だ。見せしめに花澤の息子の嫁が連れて行かれる。この場面、ずっと長回しの固定ショットだと思っていたが、ゆっくりドリーで寄っている。2階の神棚のような場所にキリストとマリアの絵か。カットを変えて、祀られている絵に寄る。このオープニングは素晴らしいと思う。傑作を予感する。この後も、固定のロング、あるいはフルショットと思っていると、ゆっくり前進移動するカメラワークが何度も出て来る。

 本作は大島渚が東映に招かれて撮った時代劇。主演(タイトルロール)は、大川橋蔵。敵対する島原の藩主は平幹二朗で、幕府の役人を佐藤慶、代官は上述の千秋が演じるが、悪役として一番目立っているのは佐藤慶だ。ただし、島原の乱の勃発前夜から緒戦を描いた映画であり、合戦シーンはほとんど無い。代官所襲撃や島原城への初攻撃といった場面も、アクションシーンはほゞ割愛されている。

 なので、本作は主に、キリシタン農民の動向、迫害や、乱を組織化する過程が描かれた映画と云えると思う。キリシタン側の主な人物を書いておくと、まずは、転んだ絵描きの三國連太郎の存在があり、彼は四郎−大川と対比すべき役割を担う重要な役だろう。三國の娘のお菊−立川さゆりは、四郎を慕っている。また、キリシタンではなく侍(藩士)だが、四郎の武士時代の親友という役で大友柳太朗が出て来る。彼の役割も大きい。大友の妻が丘さとみで、かつては四郎と恋仲だった、という関係だ。そして、代官所襲撃の場面あたりで唐突に浪人の戸浦六宏が登場し、四郎以上にリーダーシップを発揮するというのは奇異な作劇だが、佐藤慶と戸浦に重要な役を与えている、ということで、大島渚らしさが出ている。

 あと、美術装置で特筆すべき場面がいくつかある。まずは、断崖の前に長いスロープを石垣で築いた刑場。これを山の上から撮ったのだろう、すごい俯瞰ロングショットがある。この場面では、蓑を着せたクリスチャンが火を付けられ、絵に描けと三國が命じられる。これを平幹二朗と佐藤慶の二人は馬上から、大友と千秋が立って見るという場面。あるいは、代官の屋敷の炎上を門の前の堀側から長回しで撮ったショットもなかなか豪華な装置なのだ。こゝも、ゆっくり前進移動して見せる。他にも、島原城も堀外からの外観だけだが、私には予想外の立派さだと感じられた。こゝは、反乱側の人々をぐるっと右へパンして映す長回しだ。

 さて、これを書かないワケにはいかないと思うので書くけれど、終盤15分間ぐらい、反乱側の主要人物が代わる代わるバストショットで意見を述べる、夜の集会の場面になる。名主の花澤が、前半の態度と打って変わって、こんな気違いにはもうついていけない、と四郎のことを云い、組織の分裂や意見の変転が描かれる、プロット的には(大島渚的にも)クライマックスと云ってもいいシーケンスなのだが、やはり、これが面白いかと云われると、なかなか辛いものがある。さらに、このシーケンスの後、出陣のショットがあってエンド、というのも拍子抜けする。見ている最中は、どうしても最後に大きな合戦シーンが用意されていることを期待するではないか。無い物ねだりだとは認識するが。

(評価:★3)

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