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[コメント] 夜ごとの夢(1933/日)

桟橋に玄人っぽい女と水夫二人。栗島すみ子と、大山健二小倉繁のコンビだ。煙草とマッチのやりとりが描かれ、栗島は蒸気船の渡船に乗る。
ゑぎ

 以降、佃島が舞台ということか。洗濯物の干してある路地が縦構図で示され、栗島は子供のいる家へ。こゝは吉川満子の家。栗島が我が子と会う場面で、ドリー前進移動が2回ある。子供は吉川の家に預けられていた、栗島は何日も家を空けていた、ということを、日めくりカレンダーで表現する見せ方に唸る。

 また、屋内でも、奥行きのある画面、縦構図が意識された画面が多い。手前に栗島、奥に吉川など。フォーカスはいずれかのみ合っている。ピント送りするショットもある。栗島が女給として働く店の描写では、カウンターの前を横移動する。女給には沢蘭子もいる。女将さんは、飯田蝶子。こゝでも、冒頭の水夫二人と煙草とライターのやりとりがユーモラスに描かれる。そして親方(船長か)が登場。これが坂本武。本作の坂本、おでこに傷がある、栗島にご執心の悪役だ。

 何年も行方知らずになっていた夫−斎藤達雄の登場は、小卓に突っ伏して寝ているショット。穴の空いた靴下。栗島は、起こして、出て行け、と云う。こゝで、斎藤へもドリーで寄る。この後、何度もドリーの寄り引き、前進後退移動が使われる。これには、ウザく感じてくる。あるいは、ドリーだけでなく、非常に縦横無尽なカメラ位置、カメラワークが目立つ。屋内の高い俯瞰ショットもあるし、床から人物へのティルトアップのアオリだとか。斎藤がリンゴを放り投げると、空に上がった野球のボールにマッチカットするといった繋ぎもあり、この時期の成瀬は、本当に様々な撮影・編集技法を試そうとしていたのだろうと思われる。

 そしてラストは凄いモンタージュのシーンだ。栗島へのドリー寄りは何回行われたのだろう。空ショットへの栗島のフレームインや、逆にフレームアウトして空ショットにする小刻みなカッティング。佃島から見た築地側の川の風景ショットの挿入。さらには、インタータイトル(挿入字幕)にも寄る(というか、奥から飛び出て来るような見え方をする)のだ。この畳み掛けには驚愕するが、しかし、こゝまでやらなくても、と思ってしまった。全体、ドリーのショットを半分以下にすべきと思う。

(評価:★3)

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