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[コメント] ヒットラーの狂人(1943/米)

チェコの風景をモルダウの流れとの二重写しで見せた美しい画面、続いて、ヒロイン、パトリシア・モリソンの家族の朝食風景という牧歌的なシーンから始まる。しかし、タイトルで分かる通り、非常に陰惨なお話で、ナチスによる一村の大虐殺という実話に基づいてプロットは収束する。
ゑぎ

 タイトルロールは、親衛隊の中でもヒムラーに次ぐ実力者だったラインハルト・ハイドリッヒのことで、ジョン・キャラダインが演じている。本作の見るべき点は、キャラダインの狂気的な悪役造型に尽きる。まずは、プラハ大学の哲学授業に乗り込んできて、女子を並べて品定めするシーンのイヤラシさ(このシーンには無名時代のエヴァ・ガードナーがちらっと登場する)。そして、最も強烈なのは、村の聖職者を何の躊躇もなく殺す場面だろう。また、ラスト近く、瀕死の彼の元へヒムラーが訪ねて来た際に、「ドイツは負けるだろう」と言うシーンもいい。見事な迫力だ。このキャラダインは畢竟のはまり役ではないだろうか。

 一方で、本作はダグラス・サークのハリウッド最初期作なのだが、弱体プロダクションでの製作、ということもあるのだろうが、全般に貧相なセットで、雑なメロドラマ部分も多く、1950年代にユニバーサルで作られた傑作群を期待すると、失望する出来だ。例えばヒロインのモリソンは、とても綺麗な人だが、演出としては、良いところがない。レジスタンス活動のために潜伏する恋人、アラン・カーティスのもとへ、やって来てはキスするだけ、というような描かれ方だ。という訳で、同時代のナチスの悪逆無道を告発する、というニュース性や社会的意義に力点が置かれ(もしかしたら、拙速でも良しということだったのかも)、映画としての愉悦に乏しい平凡な出来にとどまってしまった作品に思える。

(評価:★3)

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