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[コメント] サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜(2019/米)

カメラワークは手持ちが多用される。主人公ルーベン=リズ・アーメッドと、ルー=オリヴィア・クックとのシーンは、ほゞ手持ち。
ゑぎ

 しかし、ルーベンとジョー=ポール・レイシーとの会話は、(多分)全て固定ショットの切り返しが行われている。これは顕著な演出上の選択だ。本作においては、ジョーが精神的支柱のごとく、画面にも安定をもたらす役割なのだ。

 題材的に音響が凝っているのは勿論だが、それ以外には驚くような凝った演出は、ほとんどない。音の演出では、ドアの閉まる音が大きいと何度も感じる。ルーベンの耳が徐々に聞こえなくなる、といった過程は、ほとんど描かれない(急に聴力が低下する)。また、人工内耳に徐々に慣れる、ということも表現されない。本作で表現されている難聴者の聞こえ方、あるいは人工内耳の聞こえ方は、単なる一例に過ぎないし、これが真実の聞こえ方を再現できているかどうかも私には分からない。それは、健聴者も一人一人聞こえ方が異なっているはずだが、それを想像するのが難しいのと同じだ。私には、ラストの無音の表現も、過剰な演出だと思った。過剰なことは、映画らしさでもある。

 手術シーンは、とても簡潔に描かれる。説明的でないのは良い点でもあるが、手術をすると、どれぐらい元に戻る可能性があるのか、多くはどんな聞こえ方になるのか、というような説明とインフォームド・コンセントが割愛されるのは、ちょっと引っかかる。もう映画的な話ではなくなってしまって恐縮だが、人工内耳の価値を貶める偏見が生まれる可能性があるように思った。多分、映画が描きたいことは、そんなことではなく、聞こえることに執着することも一つの依存であり、執着からの自由について描きたいのだろうが。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)プロキオン14

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