ところが、由宇子の父親−光石研が経営する学習塾での様子や、塾の生徒である萌−河合優実の状況がクロスで描かれるので、回りくどい構成だな、と思ってしまったのだ。

　実を云うと、前半のかったるい感覚が中盤以降も尾を引いた。由宇子の天秤の一方の皿は、萌が導くものだった、と理解できた時点で、かなり衝撃を受けたし、全般に演技・演出の緻密さとテンションの持続でラストまで緊張感途切れずに見ることができる良作だと思うが、違和感も残る映画だ。特にラストのシーケンスショット内の演出は、私はダメだと思う。主に萌の父親−梅田誠弘への演出のことを指している。こゝが異なっていれば、佳作と云ってもよかったと思うぐらい、決定的な違和感だ。

　さて、本作の瀧内公美は顔演技もさることながら、シーンごとに発声を変化させる演技が見事だと思った。『わが青春に悔いなし』を見た時に、黒澤よりも、原節子の方が映画センスがあると感じさせたのと同じように、本作も瀧内の映画センスが抜きんでているのではないか、と思わせるぐらいだ。また、河合優実も、本作でも素晴らしい存在感だ。女子高生役だが中学生ぐらいに見える。はからずも、近作の『佐々木、イン、マイマイン』と『サマーフィルムにのって』もスクリーンで見たが、３作とも全く異なるキャラ造型で、同じ女優とは思えない。しかし、いずれにおいても印象深い爪あとを残している。これからが楽しみな女優だ。そして、自殺した教師の姉を演じる和田光沙もいい。背中での泣きの演技と、瀧内と川瀬陽太が言い争う場面での驚愕しながら見守る、受けの演技も実に見応えがあった。

　また、カメラはずっと手持ちで、複数の人物も基本パンニングで見せ、ほとんど切り返し無し（実はこの画面・演出法も、私は好みではない）。ただし、丘みつ子のアパートでの３回目のインタビュー場面（お土産のパンを渡す場面）では、長い間をとった、手持ちでの切り返しを見せる。こゝで切り返しを使うのは、納得性が高い（丘みつ子の感情の変化を効果的に見せる）。

＃備忘

　冒頭、自殺した女子高生のお父さん−松浦拓也が、グリーンスリーブスの変奏曲をリコーダーで演奏しているが、これが上手すぎて、違和感があった（特にトリル）。あと、医師役の池田良の、最初の車中のシーンが気持ち悪かった。意味深過ぎる演出だと思った。