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[コメント] シャドウプレイ〔完全版〕(2018/中国)

霧の中の川と小舟のショット。霧が深く、見えたり見えなかったりする。良いオープニングだと思う。「2006年、北江」と出る。本作は主に広州が舞台。
ゑぎ

 次に川岸の林の中で逢い引きする男女。女性が土の上の何かに触れ、絶叫し逃げる。こゝ、ファーストカットの良さに比べると、マヌケな絵面じゃないか。続いて、ドローンでビル群の上空を移動して見せる。ビル間を抜けたりもする。高層ビル群の中に、古い建物や瓦礫の中の公園、バスケットコートがある。こゝから少年たちが集まる様子を、ドローンや手持ちの移動でダイナミックに見せる。立ち退きを進める行政(及び業者)と住民との騒動。これが暴動に発展する。この暴動シーンもとても迫力がある。こゝで、主人公のヤン刑事(ジン・ボーラン)と、開発責任者のタン主任(チャン・ソンウェン)が登場する。タン主任は暴動後の現場確認中に、ビルの屋上から落下して死亡するのだ。このメインの時間軸は2013年。

 主要登場人物は他に、タン主任の妻のリン(ソン・ジア)と娘のヌオ(マー・スーチュン)。そしてタン主任(及び妻のリン)の古くからの友人で不動産会社の社長ジャン(チン・ハオ)とその情婦であり、右腕的な経営者でもあるアユン(ミシェル・チェン)。プロットはヤン刑事の捜査を中心に展開するが、登場人物たちの過去が、誰のフラッシュバック、という明確な切り分けをせずに、恣意的に挿入され時間が錯綜するパターンで描かれていく。尚、主要人物は全員とても魅力的に撮られている。特に3女優は皆いい。

 カメラワークは冒頭のようにシーケンス導入部などでドローンを使ったりもするが、ほとんど手持ちカメラによる不安定なショットだ。ただし、切り返しは行われる。そんな中で、ジャンとアユンの出会いの場面のフラッシュバックは、クラブで唄うアユンのショットだが、こゝは、ドリーでゆっくり寄るショットだ。ドリーは全編でこゝだけかも知れない、特別な場面と云っていいと思う。

 また、迫力のあるシーンも多いが、特に二つのカーアクションの場面は特筆に値すると思う。一つは、リンが運転しアユンが助手席にいるムチャクチャな暴走シーンだ。こゝは本作で最もスリリングな見せ場だろう。もう一つは、モデルルームカー(トラック)の中での、ヤン刑事とジャンの対決で、このシーンの唐突な挿入には度肝を抜かれた。ちょっと見たことが無いような独創的な場面じゃなかろうか。これらのシーンはいずれも、引きの絵を見せないのが不満だが、特にモデルルームカーの場面は、スタジオか駐車場で停車したまゝで、この画面を造型していると見たのだが、これはこれで凄い演出だと思う。

 ただし、中盤でヤン刑事と女性との情事場面がネットで拡散したり、さらに彼が別の殺人事件の容疑者になったりというような無理やりな展開には、ちょっと興を削がれてしまったのだ。あるいは、ラスト30分は、くどいと思う。一度見たシーン、ないしは、もう見せなくてもいいだろうと思うシーンが続くと私には感じられた。ただ、タン主任の屋上からの落下をワンカットで見せるショットは、中国映画界のコンピュータ処理技術の高さを知らしめるショットだと思う。これには素直に瞠目する。

#日本語字幕だけで、地名や日時などが出る(しかも頻出する)のは、どういうことだろう。どのショットでどう出すか、指定されているのだろうか。

(評価:★3)

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