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[コメント] フェイブルマンズ(2022/米)

本作のデヴィッド・リンチによる映画監督の造型については、本邦公開のずいぶん前からネット上で話題になっていて、一番の楽しみにしていたのだが、まさか、これほどの扱いとは思っていなかった。
ゑぎ

 『捜索者』のクレジット開け劇伴(イーサンの帰還、南軍歌の「ロレーナ」)と共に始まるエピローグなのだ。私には、このエピローグを描きたくて、本作を作ったとしか思えないぐらいの扱いに感じられる。ラストカットのティルトアップ!

 あとは、何と云っても序盤の子供時代だろう。夜の映画館前。小さなサムにとっての初めての映画館。父親−ポール・ダノと母親−ミシェル・ウィリアムズが、一所懸命、映画の魅力を話して聞かせる。上映は『地上最大のショウ』だ。そう、冒頭は、映画とは、とりもなおさず「地上最大のショウ」だということ、そしてエピローグでは、人類史上最高の映画監督の言葉を借りて、映画は「モーション・ピクチャー」だということを云っているのだ。

 というワケで、序盤と最終盤に比べると、中盤も、流石にソツなくプロットを運ぶけれど、イマイチ面白みが薄いと感じてしまった。例えば、サムの大伯父さん(母の伯父さん)−ジャド・ハーシュのような臭いキャラクターをディレクションしておいて、その勿体ぶった忠告を後半で大して活かさない、といったことが指摘できるだろう(家族崩壊の危機にもフィルム編集をしている、というぐらいか)。あるいは、サムの映画熱が、カリフォルニアへの転居前に急に冷めてしまうのも、納得性に欠けると思った(いろいろあったことは分かるが、とは云え、きちんと理由は描かれていない)。その程度の映画好きだったのか、と思ってしまったではないか。

 また、序盤が良いのは、ミシェル・ウィリアムズの造型に拠るところも大きい。模型の列車と自動車の衝突がやりたいサムに、8ミリカメラで撮影することを提案する場面(お父さんには内緒、というのは中盤でサムによって反復される)。トルネードを側まで見に行くクダリ(その行動力。そして「物事が起こるのは全て理由がある」というエピグラム)。キャンプ場での、車のライトに照らされたダンスシーン。そして、ポール・ダノの助手役−セス・ローゲンの、ダノと対照的な陽性の造型もとてもいい。

 残念ながら、後半のカリフォルニアの場面についても、私には、普通の青春モノのレベルにとどまる出来だと思える。ただし、二人の女子生徒役の女優については、今後に期待大だろう。一人は、二股のイケメン−ローガンの本命、クローディア−イザベル・クスマン。この人は『リコリス・ピザ』でも注目した女優だ(ウォーターベッド店の開店パーティで出て来る美少女役だった)。もう一人は、クローディアの友人役で、サムの彼女になる(とまで云っていいか分からないが)モニカ−クロエ・イースト。モニカの部屋で、キリストについて学ぶ(?)場面が、ちょっとぶっ飛んでいて面白かった。

 そして、若手女優で云うと、何と云っても『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『グレイマン』のジュリア・バターズが、サムの妹役(眼鏡をかけている方)で、出番が多くて嬉しかったのだが、それでも、重要な場面は、上にも書いた家族の危機にもフィルム編集をしているサムをなじる場面ぐらいだろう。できれば、もっと見せ場を作ってほしかったと思う。

(評価:★3)

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