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[コメント] トリとロキタ(2022/ベルギー=仏)

開巻はロキタのアップ。何かの面接場面。トリが本当の弟かどうか問われている。トリがどうして弟だと分かったのか。ロキタは泣きそうになり、薬を飲む。途中、右にパンし、付き添っている大人の男女を見せるが、インタビュワーは見せない(オフの声だけ)。
ゑぎ

 いつもの通り、全編手持ちカメラで、作り手が見せたい部分だけを切り取っていくカメラワーク。また、これもいつものように、ドラマの渦中に観客は放り込まれたような感覚になる作劇だ。よくある状況説明のセットアップなんか全くしない。徐々に人物の自然な会話などから状況を分からせていく作劇。

 なので、ロキタとトリが実の姉弟ではない、というようなことも徐々に分かる。二人が難民船の中で初めて出会ったことだとかも。トリは「不吉な子」とされ、迫害を受けたので故郷に帰ると殺される可能性が高く、難民認定を受けやすかった。しかし、ロキタは、本当は出稼ぎ目的であること。故郷の母親にお金を送金し、実の弟たちを学校に通わせたいと思っていること。また、ロキタとトリは、イタリアンレストランで歌を唄って小銭を稼いでいるが、その店の料理人−ベティムが麻薬の密売人でもあり、ロキタは麻薬の運び屋もやっている(トリも手伝っている)こと、などなど。

 プロットが大きくドライブするのは、ロキタが、料理人のベティムから、もっと金になる仕事がある、3カ月働いたら、偽造ビザを渡してやれる、と云われ、郊外の廃工場(廃倉庫)に連れて行かれる夜の場面からだろう。車で連れて行くのはベティムの仲間で若い男、ルーカス。道の途中で目隠しされる。着いた建物の中で、ロキタはスマホのSIMカードを取り上げられ、3カ月間、完全に監禁状態になるのだ。

 さて、私の感覚で云うと、本作のハイライトは、この後、トリがロキタに会うためにとる行動を追うシーケンスだ。ロキタが監禁されている建物にたどり着くまでの行動(自転車での移動がスリリング)、あるいは建物に潜入する場面も、なんてクレバーな描写だろう。そして、終盤には、さらにスリリングな展開が待っているが、実を云うと、私はもっと悲惨なエンディングを予想しながら見ていたのだ。なので、この帰結には少々拍子抜けした感覚もある。エピローグの前の、林の中から道路へ出たルーカスを、樹々の間から撮ったショットは綺麗な光のショットだったので、こゝで終われば、私としてはスッキリしたが(ま、さすがにそんなワケにはいきませんね)。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)jollyjoker[*]

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