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[コメント] 小説家の映画(2022/韓国)

主人公の作家ジュニ−イ・ヘヨンの邂逅の数珠繋ぎが描かれる映画。それは皆、人生の転機をむかえている人たちだ。作家も、長く新作を発表していない(後半では筆を折ったという発言もある)。
ゑぎ

 作家は、かつて世話になった女性を訪ねて、ある地方都市の書店にやって来る。その女性−ソ・ヨンファは今は書店の店主になっている。明言はされないが、この人も何かに挫折して、ソウルから逃げ出すようにこゝに来ているようだ。また、書店の店員−パク・ミソは、かつて俳優を目指していたが諦めた、というような発言がある。

 書店主と別れた作家は、ユニオンタワーと呼ばれるタワーの展望台で、旧知の映画監督−クォン・ヘヒョと出会う。監督は最近心境の変化があり、作風が変わって来たと云う。また彼は女性−チョ・ユニを連れているのだが、女性は「監督と一緒に暮らしている者です」と自己紹介し、監督は「妻です」と云うのも面白い。続いて、作家と監督たちが公園を散歩しようとしていると、有名女優−キム・ミニに会う。監督は、最近、映画に出ていない女優のことを勿体ないと発言する。こゝで作家と監督が「勿体ない」という言葉をめぐって議論になり、気まずくなったのか、監督夫婦が辞去する。残された作家と女優がこの後、ラストまで絡む、というプロット展開になるのだが、途中で、作家が若い頃一緒に遊んでいた詩人−キ・ジュボンと再会する、ということは記載しておこう。詩人は、最近は酒を飲まないと詩が書けないようなことを云う。

 本作もホン・サンスが自身で撮影を担当しているようだが、やはり、かつての気持ち悪いズームは影をひそめ、ゆっくりしたもの、寄り過ぎないものが多く、常識的なズーム演出だと思う。それは、ユニオンタワーから小型望遠鏡で地上を見るミタメに模した信じられないようなズームイン(こゝでウォーキングするキム・ミニが既に映る)も含めてそう思う。あと、コーヒーを飲むシーンや食事シーンが多いのも特徴だが、複数人物で、マッコリを飲む、飲み会シーンが有り、やっぱり、キム・ミニの酔っぱらい演技を見ることができる(酔ってテーブルに突っ伏して寝てしまう)。

 それと、本作はイケズな演出というか、捻った見せ方や、逆に見せない演出、放りっぱなしの場面なんかが、とても多いと感じる。例えば、女優−キム・ミニの夫(陶芸家らしい)が最後まで登場しない、という作劇はその顕著な例だろう。冒頭、主人公の作家が書店に入って本を見るショットでも、画面外から、お母さんが娘を叱っているような、ちょっと激しい会話が聞こえて来て耳に残る。これは、店主が店員を叱ったのだろうか。以降のシーンを見ても、そうとは思えないのだ。いずれにしても、相撲の猫ダマシみたいなものだろう。この監督の映画を楽しむのは、こういうイケズな演出を面白がれるかどうかというのもポイントだと思う。他にも、作家たちが、ユニオンタワーを見ながら、その外観について、ロボットみたいと言及するのだが、私は、絶対に外観を映さないだろうと思いながら見て、正解だった。あるいは、作家と女優が2人で食事する場面の窓外の屋外が、露出オーバーで飛んでいるのだが、窓外に女優を見る小さな女の子が出現するのは、これも不思議な演出だ。一回ハケたのに、再登場し、次に外に出た女優と2人で左へハケる。

 そして、映画中映画だ。この部分には、キム・ミニの正面バストショットからアップ、カメラ目線ショットも有って、清涼効果がハンパない。ラスト(映画中映画のラスト)の花と落ち葉から始まるショット、このワンカットだけカラーになる効果も絶大だと思う。しかし、この映像の表す事柄もよく分からない。キム・ミニと一緒に映っている初老の女性は彼女の夫の母親であり、撮影をしているのは、キム・ミニの夫、という設定なのか、と私は思いながら見たのだが。さらにモノクロに戻ったラストカットもなんだこりゃ、というもので、主人公の作家はいったいどうなってしまったんだろう!意味不明は面白さでもあるが、意味を考えさせ過ぎるのは悪い癖だとも思う。

(評価:★3)

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