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[コメント] オッペンハイマー(2023/米)

面白い!相変わらずアカデミー賞って面白い、酔狂なイベントだ。勿論、今見るべき作品だとお薦めするし、地力のある映画だとも思うが、私の感覚だと良い点に比べても宜しくない点が多く、いきおい批判みたいな感想ばかりになってしまいました(悪しからず)。
ゑぎ

 溶明前に水音。池か。水滴の波紋。それを見るキリアン・マーフィの仰角ショット。これもフラッシュフォワードか。この映画もフラッシュフォワードとフラッシュバックがメチャクチャ多い。中でも気になったのは、会話シーンで科白に人名が出た際、ごく短くその人物のウエストショットなどを挿入する、といった説明的フラッシュバックが頻出する点だ。これって観客の理解を手助けするための親切心なのかも知れないが、もとより、こんな説明的配慮を必要とする(と作り手が考える)全体のデザインが宜しくないのだと私は思う。というか、映画として、カッコ悪いフラッシュバックじゃないか。

 もう一つ、時空を錯綜させる構成上での、観客の理解を促進する説明的措置として、カラーとモノクロの使い分けがある。オッペンハイマー−マーフィの世界はカラー、ストローズ−ロバート・ダウニーJr.のそれはモノクロ。もっとも「世界」という言葉は不正確だと認識している。カラーとモノクロの切り分けは、作り手の視点で、どちらの人物を描こうとしてるかに関わっていて、2人が同時に存在する空間は、重視して描く側に合わせてカラーとモノクロを切り分けているように思う。このルールはかなり厳密に守られており、確かに奏功している部分も多々あると認めるけれど、焼け石に水というか、別にカラーで統一しても良かったんじゃないかとも思う。この2人がほとんど同じ程度に重要な人物であるという強調にもなっており、そのことの是非も問われると思う。私はダウニー・Jrの尺を取り過ぎだと感じた。それがこの映画の面白さに繋がっているとは思えないのだ。

 また、いつもながら音楽がうるさ過ぎる。こけおどし演出とまで云うと云い過ぎかも知れないが、例えば、ロスアラモスで、ラビ−デヴィッド・クラムホルツがオッペンハイマーに、軍服を着るな、と忠告した後の、平服に着替える姿や帽子とパイプを映すショットなんかでも、重低音を効かしてしまう。この部分なんて、惰性で音を流しているように感じた。無音で繋いだ方がずっと良い、静謐なシーンになるだろう。

 あと、序盤のオッペンハイマーの聴聞会シーンで、彼の妻ーエミリー・ブラントのフォーカスが外れているショットを繰り返す画面に少し違和感を覚える。これは同時に、鮮烈なブラントの登場シーンあるいはフォーカスインのショットがあるのだろうと予想させもするのだが、これに関して、結局大した演出がない、というのもどうか。ついでに書いておくと、マーフィとブラントが初めて出会うパーティの会話シーンで、マーフィが明後日の方を向いているように見える切り返しショットの違和感。あるいは、ブラントと対照的な、愛人役という位置づけのフローレンス・ピューに関しても、ピューだけがやたらとヌードシーンがあるのも嬉しいという気持ち以上に違和感がある。特に聴聞会のシーンで、幻想として登場するのは不快ですらある。ジェイソン・クラークトニー・ゴールドウィンといった男優たちが見守る中で、これをやらされているのかと思ってしまい、ピューが辱められているような、いたたまれない感覚になってしまった。それに、ピューもブラントも全然綺麗に撮られてないのも宜しくない。

 ピューの幻想シーンに触れたので、他のイメージシーンについても書いておく。これもフラッシュバックなどと同様に過多と思うが、序盤の宇宙や、火の粉、太陽の炎、ブラックホールといったイメージ処理も、でかい音を取り払ってしまえば、大したことのない造型だろう。ヒロシマの後の、熱狂する聴衆が足を踏み鳴らす階段教室でのスピーチのシーンで、マーフィの背後を揺らすエフェクトは面白い思ったが、聴衆の中の女性(ノーランの実娘だと喧伝されている)の顔に細工を施した演出は、ケロイドか。足元の炭みたいな物は黒焦げの死体か。これらを挿入したこと自体は一定の評価をされてしかるべきだと思うけれど、しかしプアなメイク・美術じゃないか。

 さて、最後に本作の良い点として、チョイ役を含めて沢山の脇役に見どころを与えてくれている点は明記しておきたい。これについては、私のような脇役ファンには素直に楽しい部分だ。中でも、ローレンス−ジョシュ・ハートネットの扱いの大きさが嬉しいし、ダウニー・Jrの公聴会場面で、彼の側近のような位置付けの議員を演じているハン・ソロ−オールデン・エアエンライクが目立っているのと、アインシュタイン役のトム・コンティが儲け役だろう。何と云っても、アインシュタインの扱い(コンティの扱い)は、本作の一番の美点だと思う。

(評価:★3)

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