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[コメント] 天使の恍惚(1972/日)

モノクロの横山リエの歌唱シーンから始まる。場所はクラブ。横山はクラブ歌手の役かと思う。彼女の唄い方が面白い。テーブル席には荒砂ゆきと男たち。中に吉澤健がいる。
ゑぎ

 皆でメモを燃やして乾杯。こゝでドリー前進移動が使われる。あるいは、俯瞰でテーブル席と唄う横山を収めたショットも挿入され、案外カッチリ作られていることが分かる。

 続いて荒砂と吉澤のベッドシーンに。こゝはカラーで綺麗な画面だ。全編、基調はモノクロだが、このように要所でカラーのシーンが挿入される。本作のこのパートカラーの趣向は、なかなか上手く行っていると思う。また、この冒頭辺りで組織のピラミッド構成が徐々に分かってくる。荒砂は秋と呼ばれ、吉澤が十月という名前のように、季節の名前の幹部がおり、その下の現場をまとめるリーダーが月の名前、現場のメンバーは曜日で呼ばれる。歌手かと思った横山リエは金曜日。他の目立つメンバーは月曜日−本田竜彦と、土曜日−小野川公三郎だ。中盤以降、冬だとか二月という人物が登場するが、組織での位置付けがすぐに分かるのだ。

 上でカッチリ作られている、と書いたけれど、そう感じる場面が随所にある。例えば、序盤の米軍基地のシーンなんかでも、広い敷地に自動車が停車するロングショットなんてゴージャスなショットじゃないか。細かいところでは、吉澤の、めしいた眼の見せ方も良く出来ているし、マンションの一室の爆破だとか、終盤の爆破テロの連打の編集にしても、低予算と分かるチャチさではあるが、テクニカルな部分がおろそかにされていない映画だと感じさせる。

 あと、月曜日−本田と土曜日−小野川の対比も効いている。月曜日の好色漢な側面と、土曜日の皆から子供扱いされる生硬なキャラ造型。十月−吉澤と土曜日がいるアジトに、月曜日と金曜日−横山が訪ねて来るなり、さあやろう、と云って、まぐわい始める場面では、交接している月曜日に土曜日が普通に話しかける。あるいは、月曜日が、女子高生娼婦と云う女の子二人を連れて来て、活動資金のためにヌード写真撮影を行うのだが、それに付き合わされる土曜日の場面も面白い。土曜日は秋−荒砂のスパイでもあり、2人のベッドシーンもあるが、そのことを十月たちも理解しているのがいいし、秋は十月のことを心の中では思っていると土曜日が云うのもいい。

 そして、山下洋輔トリオのフリージャズをバックにした、終盤のゲリラ活動、テロ場面と爆破を繋ぐモンタージュは圧巻だ。その中には山下洋輔ら一人ずつの顔面ショットも含まれる。山と荒野を背景に爆炎を上げるカラーのショットがひときわ鮮かだが、これは御殿場だろうか。まるで『気狂いピエロ』のよう。ラストシーンは新宿の雑踏。今見ると常套のエンディングだが、それでも、実にカッコいい。

#二月が月曜日と金曜日を拷問するシーンでは、二月の部下に足立正生がいる。二月役の岩淵進を調べると、元日大芸闘委の行動隊長らしい。「映画評論家への逆襲」(小学館新書)の中の荒井晴彦のコメントより。

(評価:★3)

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