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[コメント] 永遠の人(1961/日)

画面に「阿蘇」と出る。朝まだ暗い中、ロングショットで機関車が走る。連結部で抱き合う男女。男性は石濱朗だ(女性の顔は暗くて見えない)。横の構図ばかりが続く中、道に佇む高峰秀子のドリー寄りのショットを挿んでタイトルイン。
ゑぎ

 このタイトルインはカッコいい!紛れもないタイトルロールの画面化だ。これだけでも心揺さぶられる。キャッチーなフラメンコの歌唱もそのミスマッチがいいと思う。この冒頭部分は昭和35年の場面。こゝには後半で戻ってくる。昭和7年、19年、24年、35年、36年のエピソードが章立てで綴られる映画。特に序盤から前半は、シネスコを活かした横の構図が頻出し、構図フェチには、たまらない画面の連続だ。

 昭和7年の章は、足を負傷した仲代達矢の帰還場面から始まる。彼は地主−永田靖の息子。高峰は小作人−加藤嘉の娘だ。この章のハイライトシーンは2つあると考える。まず一つ目は、高峰が仲代達矢に手籠めにされた後、川の淵に身投げをする場面の俯瞰の長回し。本当に川に流される様を撮っている(スタンドインか?)。もう一つは、高峰と仲代の祝言が決まった後、佐田啓二が英雄となって帰還し、その夜、兄−野々村潔が止めるのを振り切って高峰に会いに行く場面だ。実は私は、こゝが全編のハイライトだと思う。翌朝の汽車で逃げようと約束する2人。こゝのカット割りの緊張感、2人の想いの強さの造型には涙が溢れてしまった(しかし、それだけに、この後の佐田の翻意は解せない)。

 昭和19年の章では、仲代に襲われた日にはらんで生まれた長男は11歳になっており、仲代との間にも2人、息子(次男)と娘がいる状況で、長男に厳しくあたる高峰が描かれる。こゝに、佐田の妻−乙羽信子とその子(息子)が疎開で村にやって来ることで、プロットを不穏にかき回す。乙羽と仲代は、お互いに伴侶が別人を想っている、という共通点があり、接近するのだが、しかし、もっと深い、ドロドロの関係になると思ったのに、そこまで描かないのは木下らしさかもしれないが、ちょっとガッカリした。

 昭和24年。佐田は胸を患って帰郷する。高峰と仲代の長男は長じて田村正和】になる。この章では、近隣中で自分の出生の顛末(地主に犯された小作の娘の子であるということ)を知らない者はいないという田村の苦悩が描かれるが、母がかつて身投げした淵の上にいる田村、それを見る佐田、という場面から始まる一連のシーンの畳みかけは特筆すべきだろう。この中では、佐田が高峰の手を引っ張って走る場面の横移動で、一旦止まった後、少し前進移動し、また横に移動するワンショットが目を引いた。これは、レールをジグザグに敷いていたのだろうか。また、田村も淵に身投げするのかと思わせておいて、阿蘇の山肌を歩く彼を挿入する画面作りの感覚にも驚かされる。

 そして昭和35年。アバンタイトルをそっくり反復するのは私のキライな見せ方だが、この章は佐田の息子−石濱と高峰の娘−藤由紀子の駈け落ちを描く短い挿話だ。同じ村にいるのに佐田と高峰は10年会わなかったと云う科白には驚いたが、こゝでは、死んだと思っていた乙羽の再登場とその変わりよう、佐田の病状の悪化を印象付け、次章に繋げる。この最後の2つの章は連続した年でもあり、一つの章としてもよかっただろう。

 昭和36には、石濱と藤田が、赤ちゃんを連れて帰郷する。既に危篤状態の佐田。高峰もその床に来る。こゝまで書かないでいたが、本作は、第一義に高峰と仲代の強烈な確執が描かれた映画であり、高峰の徹底した憎悪とその冷たい発露、仲代の開き直った太々しさの下にある恋慕とそれが叶わない虚無みたいなところが本作の心理的な面白さだと思うが、ラストは、佐田も含めて、お互いを許すことができるのか、という作劇になる。しかし私には、全くかったるい描き方だった。許しても許さなくても私はどっちでもいい。もっとバシッと潔く決めて(画面で見せて)欲しかったと思う。

 というワケで、特に最終章は気に入らないが、全体に良いショットの溢れた実に面白い映画だと思う。これを木下の最良作とまでは云い難いが、やっぱり、雄大な自然を背景に描く木下映画にハズレは無いという私の偏見は揺るがなかった。あと、度々挿入されるフラメンコ調の歌の戯画的な感覚も私は好きだ。唄っているのは六地蔵なのか。唄声に合わせて、地蔵のショットを見せる編集があるのもふざけている。

#備忘でその他配役等を記述。

・仲代の帰還を祝う宴席で万歳をする村の名士(?)は浜田寅彦

・高峰の次男は戸塚雅哉に。2人が阿蘇(草千里)のバス停で会う場面もいい。

・駐在さんの東野英治郎。終盤ワンシーンのみの出番。

(評価:★4)

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