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[コメント] 戒厳令(1973/日)

ファーストカットの塀と瓦を使ったマスキングされた画面から、全編メチャクチャに凝った構図の連続だ。
ゑぎ

 多くはファーストカットと同じような被写体の一部で画面をさえぎるカットで、そうなると、当然ながら、カメラを引いて背景を大きく映すカットは殆どないわけで、これにより、尋常ならざる閉塞感、圧迫感を創出している。製作費用面でも、エスタブリッシング・ショットは使えなかったのだろうし、ロングショットでディティールを描きこむことができなかったのだろう。しかし、だからこそ、知恵を絞った大胆な場面構成が選択されているのだ。例えば、二二六事件の描き方では、鈴木貫太郎(侍従長)官邸への襲撃だけ、しかもそのほんの一部だけを簡潔なモンタージュで表現している。その直後、戒厳令下での、飯沼慧内藤武敏の二人の憲兵の会話シーンも、オフスクリーンを意識させる、とびっきりスタイリッシュな画面だ。とにかく画面は全編無駄なく美しい。

 プロット構成全体としては、朝日平吾による安田善次郎翁暗殺事件(1921年)に始まり、五一五事件(1932)を経て、二二六事件(1936)まで描かれるが、映画中で15年にわたる歳月が経つ、ということを認識できるような時間経過の表現は殆どない。つまり、各事件とその間の連関があっという間の出来事として凝縮され提示されている。このプロット展開も、画面の閉塞感と相俟って、時代の空気を伝えることに、そして映画の感情を伝えることに寄与していると云えるだろう。

(評価:★4)

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