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[コメント] 硝子のジョニー・野獣のように見えて(1962/日)

海。左へパンして浜辺。女たちがワカメを浜にあげている。中にワカメで遊ぶ芦川いづみがいる。そこへ、アイ・ジョージがやって来て、パンツ一丁になって海へ入る。
ゑぎ

 また、芦川の母親の田中筆子も来て、芦川ともう一人の女性が、トラックの荷台に乗せられる。運転はアイ・ジョージ。こゝが稚内、というのは終盤で分かる。こうやって売られた芦川たちだが、旭川の近くで(近文という駅で)、芦川はうまく逃げ、飛び込んだ列車内で会うのが宍戸錠だ。ということで、本作はこの芦川、宍戸、アイ・ジョージ、三人の変転のお話だ。

 宍戸の後を追って芦川も函館で降り、以降後半まで函館の競輪場周辺が舞台となる。宍戸は一本書きのジョーと呼ばれている予想屋だが、若い競輪選手−平田大三郎に対してスポンサーのように支援している。あと競輪場の前の居酒屋の女将−南田洋子や、近くの町の娼館のお母さん−武智豊子あたりが主要キャストになる。

 本作も、手持ちカメラでの臨場感のある撮影が目立つのだが、芦川が宍戸を追いかけて函館の町を歩くショットや、逃げる芦川と追うアイ・ジョージをロングショットでとらえた画面などは、レールを敷いたと思しき流麗な横移動撮影で、これらのショットも目に焼き付く。

 尚、芦川が主題歌「硝子のジョニー」を口ずさむ場面が何度かあるが、とても綺麗な声で感激する。それは、本作における彼女のキャラ造型とちょっと似合わないような声の美しさなのだ(半音上がるところなんかとても綺麗)。さらに、本家アイ・ジョージの歌唱場面も一回あるが、こちらも女衒とは思えない(って偏見だが)歌声で吃驚させられる(ある意味不自然な)場面になっている。もっとも、彼は元歌手の女衒、という設定だ。しかし、このシーンが、2シーンワンカットで撮られた場面、というのも特筆すべきだろう。最初は芦川が主題歌を教えてくれた詩人の話をする。カメラがアイ・ジョージに寄って少し暗くなり、時間経過を表現した上で、カメラが引いて、彼が歌手だった頃のこと、逃げた女のことなどを話すまで、カットを換えずに見せるのだ。ちなみに、この話の中の逃げた女は終盤で登場し、桂木洋子が演じている。

 さて、本作の一番の見どころは、やはり、頭が少し弱く、変顔を連発する、いつもと違う芦川のキャラ造型にあることは間違いない。彼女が競輪場の前の「一本書きのジョー」と書かれた台に乗って、予想屋の口上を一人で喋る仰角ショットが、全編でもベストのショットではないかと私は思う。終盤の宍戸とアイ・ジョージがそれぞれ、場末をさすらうシーケンスが性急過ぎてイマイチなのと、冒頭と同じ稚内の浜辺でプロットが収斂する展開は作劇クサいと思う。ラストカットのカッコつけ過ぎも気になるのだが、しかし、蔵原惟繕らしい戸外の撮影の自由さ、伸びやかさは全編に亘ってとても魅力的だ。

(評価:★3)

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