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[コメント] 誘拐魔(1947/米)

ノワールあるいはミステリーと云うよりも、ロマンチックコメディの要素の強いダグラス・サーク作品だ。とは云え、冒頭の霧の造型と窓と影の使い方は、犯罪映画のオープニングとしても、見事なつかみと云っていいだろう。舞台は霧のロンドンだ。
ゑぎ

 プロットは、妙齢の美女の連続誘拐(殺人)事件の解決という目的に収斂されるのだが、主人公のルシル・ボールと、ロンドン警視庁の面々、チャールズ・コバーンを筆頭にアラン・ネイピアロバート・クートジョージ・ザッコといった名脇役たちとの関係性が、とても心温まる描き方なのだ。

 ルシル・ボールは、ダンスクラブで男の指名を受けてダンス相手をする、という一種のホステスのような仕事をしているのだが、同僚の女性が突然失踪したことにより、警察と関わる。彼女が囮捜査要員として、コバーンに雇われるシーンがいい。スカートをたくし上げて、と云われ、脚を見せるところから始まり、目を瞑らされ、部屋の内装や、コバーンのルックスなんかを覚えているか確認される。婦人警官には君みたいな美人がいない、という科白。

 ボールの囮捜査の描写が続く中、簡単には真犯人にたどり着かないのだが、気が狂った服飾デザイナーという役で登場するボリス・カーロフの場面は、前半の見せ場になっている。カーロフは彼らしいとびっきりの狂気を大真面目に演じているが、同時にボールのコケティッシュな見せ場であり、ユーモアあふれる場面にもなっているのだ。カーロフに襲われたボールを救ってくれたのは、隠れて彼女の身辺を警護していたジョージ・ザッコで、彼は、ボールの守護天使と呼ばれることになる。このように、徐々にボールが刑事たちを魅了していくという関係変化の描写がいい。

 さて、ボールのロマンスの相手役は、ジョージ・サンダースだ。彼は最初にボールの電話の声に惚れてしまう。二人が初めて対面する場面は、シューベルトの交響曲が演奏されるコンサート会場なのだが、観客席で振り向くボールと、彼女に目を留めたサンダースとの視線の交錯の演出は、息をのむ素晴らしさだ。

 終盤はサンダースが容疑者となり、その濡れ衣を晴らすために、ボールが最後の囮となって真犯人に対峙するのだが、サンダースへの取り調べとロンドン警視庁の捜査シーンは、完全にコバーンが主役に見える。しかし、最後にはボールの守護天使−ジョージ・ザッコが活躍し、ラストシーンは彼が締める儲け役だ。彼の造型があるおかけで、本作が傑作と感じられる部分は大きい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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