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[コメント] 桜桃の味(1997/イラン)

他者に目を向けること。
よだか

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







博物館勤務のおとうさんの話が印象的だった。むかし自殺しようとしたときに、美しい太陽と美しい風景と美しい緑を見て、死を置き忘れて桑の実を持って帰ったというくだりだ。ここで橋本治著作の一節が思い浮かんだ。以下引用。

──── 「美しい」には重大な役割があります。それは、「自分とは直接に関わりのない他者」を発見することです。(中略)「それがどうした?」と言いたい人もいるかもしれませんが、「美しい」がそうした言葉である以上、これを捨ててしまうと、一切の存在が無意味になります。存在していても「存在していない」と同じになって、この世に存在するのは、「自分の都合だけを理解する自分一人」になってしまいます。──── (橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか』より)

自己のなかに閉じこもらずに万物を含む他者との関係を意識することが、なにかしらの意味を持つであろうことをこの文章と映画をみてしみじみ思う。車で無表情にさまよう男は次々に風景をもふくめた他者と出会った。男にとってそれが救いになったかどうかはわからない。しかし、少なくとも私は出会った。真摯な態度で男に接した人たちや鳥の鳴き声がきこえる風景に。それはたしかに美しかった。

(評価:★3)

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