コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] マイマイ新子と千年の魔法(2009/日)

これを「こどものじかん」として観客が自分の世界の外側のものとして捉えてしまったら、それは悲劇ではないのかと思うのです。
れーじ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







子供の頃、僕は新子ちゃんに負けず劣らずの空想好きっ子でありました。目に見える些細なことからいろいろ想像を膨らまして、楽しんでおりました。小学校のころ、通学路が割と長くて、その間にいろいろ空想するのがもうね、楽しくてたまらんかったのです。まあ男の子と女の子の違いというか、こっちはロボットものが主でしたが。

でも一方で、それは一人遊びが好きだということでもあって、今考えればちょっと周囲に壁を作ってたんじゃないかと思ったりもします。いじめられてたわけでもないし、みんなで騒ぐのもそれなりに好きだったので、孤立と言うほど深刻なものにはなりませんでしたが。

そんな僕は、この映画を見始めて数十分たった頃、「しかし俺には貴伊子ちゃんみたいな妄想を共有できる友達がいなかった……! ちきしょー!」と羨ましくて羨ましくて、悔し涙を流しておったのですが、しかしふと冷静になって、そして気がついたのです。

「そうだ、今の僕には読者の人たちがいるじゃないか!!」

実は、空想好きな少年は二十年近くたった今も空想好きで、と言うか空想こじらして、趣味でいろいろ創作関係に手ェ出して活動するいっぱしのオタクになっていたのでした。

で、まあ文芸同人やらエロ同人やらネット投稿なんかをいろいろ無秩序にやってるわけですが、そうすると、それなりに反響が返って来るわけですよね。単に趣味でやってるだけの、どう考えても拙くてしょっぱい僕の妄想が形になったものを、それでも楽しんでくれる人が現れてくる。その人たちは居もしない筈のキャラクターに感情移入して、共感して、ハラハラしたり嬉しがったりしてくれる。

新子ちゃんが貴伊子ちゃんという友達を得て、一緒に空想を共有して、それが何とも楽しそうに描かれる訳だけど、それが今の自分自身の、そういうところと変にシンクロしちゃった訳です。

「子供のころは新子ちゃんになれなかったが、しかし今はありえないほど俺は新子! マジ新子!」

……申し訳ありません。ホンマすいません。

まあねえ。その妄想自体がまあ……オタクですからね。色々汚れちゃったりしてますよね。無理がありますよね。確かに空想を純粋に楽しんで、それを共有することを純粋にうれしがったり楽しんではいるけども、その妄想自体がアクがあるというかアクだらけじゃんと。

ちなみに知り合いに「あり得ないほど新子ちゃんは俺自身!」と言ったら怒られました。

「新子ちゃんはそんな、XXXとか○○○とか言ったりしないやい!」と。うん。まったくもっておっしゃる通り。

………

さて、ここからは真面目な話。

この映画が何を語っているかについてはもう多くの方が言及されているので深くは触れないけれど、ものすごくおおざっぱに言って「想像力が世界をつなぐ」だと僕は解釈しました。

想像力によって自分の今生きる土地のはるか昔から続く歴史を想い、想像力によって人が何を想い何を感じているかを思いやり、想像力によってこれからの未来をどう生きるかの決心をする。

新子ちゃんはもう現実ではありえないくらい強くて美しい生き方をしているわけだけど、その原動力が何かと言うと体力でも知力でもなく、そんな想像力であり、そしてその想像を楽しめる純粋さだと思うのです。

その力でもって子供にはどうしようも出来ない世の中のあれこれを受け止め、あるいは受け流し、前へ前へとぐんぐん進んでいく訳ですね。

で、まあ上でたらたらと述べたキモい経緯でたどり着いた「今の自分との部分的シンクロ」をもってこの映画を考え直すとですね、これを「子供の世界の話」と規定してしまうのはあまりにももったいない、この映画に対して申し訳ない話だと思えてくるのです。

だって、想像力を働かせることで世界が色鮮やかになるのは、多分、僕たちが今生きる現実だって、大人の世界だって一緒なはずだから。

確かに子供が見る世界よりも大人の世界の方がずっと複雑で、ずるくて、混沌としているけれど、でも複雑で混沌としているからこそその世界には子供には見えなかった深みがある。子供のころは全然気づかなかったような美しいものもあるし、逆に反吐が出るような汚いものもたくさんある。

そのなかで想像力を膨らませて、人々の機微をより考え、世界とのつながりをもっと深く意識しするってことも出来る筈だと思うのです。

だったらそうしようよ、と思うわけです。

むしろ年食って大人になった僕たちの方がいろんなものを見ているわけで、想像力の種になるものはたくさんある筈で、新子ちゃんよりもっと先に進むことだってできる筈じゃないかと。

だって、そうでしょう。たかだか十歳かそこらの女の子に出来て僕らに出来ない筈ないじゃない。

負けっぱなしなのも悔しいじゃない。

だから、みんな新子ちゃんになろうよ、と。そして追い越してやろうぜ、と。

簡単なことじゃないか。今よりちょっとだけ想像力を働かせてて、世界を見ればいいだけじゃないか、と。

素晴らしい映画に出会って心動かされたなら、その心だけでも現実に持って帰って世界を見てみようよ、と。

それが僕たち観客が映画に対して出来ることで、そしてそれがこの映画の心である、想像力で世界をつなぐということだと思うのです。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ペンクロフ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。